6-51 思い出せ
「待たせたな、クロ。」
「ワン。」 キニスルナ。
「さて、と。コイツ、運んでくれ。オレは、いろいろ持つよ。」
木菟も鷲の目も、黙って頷いた。霧雲山の忍びとして、誇りを持って働いている。誰よりも強いと思っていた。しかし、今は・・・・・・。
上には上がいる。天霧山の忍びには、勝てる気がしない。見えないものが、見えるのだから。
他の地にも、忍びはいる。霧雲山、天霧山の他にも、いるのだろうか。きっと、いるだろう。気づかなかっただけで、擦れ違ったことも・・・・・・。
聞きたい、確かめたい、会ってみたい。でも、聞けない。今、聞くことではない。
耶万、気を失っているようだが、偽っているかもしれない。盗み聞かれ洩れれば、取り返せない。憂いの種は、少しでも除く。
「ワン、ワワンワン。」 モウスグダ、キヲヌクンジャナイゾ。
運んでる二人、心の臓がバクバクしてる。重いのかな?
谷へ下りる道の上、滝を目指して、黙って進む。
良山の風は、クルクルと流れを変える。山から谷へ吹いていた風は、道に沿って流れ出す。初めに息苦しさを感じたのは、木菟だった。
耶万の足を、鷲の目が。手を木菟が持って、運んでいた。つまり、風上を鷲の目。風下を木菟。間に耶万。どこかに隠し持っていた薬が、風に乗って木菟へ。
「ワン! ワワワンワン。ワン、ワワン。」 トマレ! キモチワルイヤツダ。カゼダ、イキスルナ。
先を歩いていたクロが、思い切り吠えた。
「二人とも、止まれ。耶万から手を離せ。今、直ぐ!」
雲が叫ぶように言った。
「ワン! ワワワン。」 ノリコ! ソコニイロ。
上にいるノリコたちに知らせ、タッと駆け寄った。木菟が膝をつき、肩で息をしている。肩口の衣を咥え、風上へ引っ張り、知らせる。
「鷲の目、風上へ。クロもだ。木菟、しっかりしろ。」
雲に担がれ、直ぐ風上へ運ばれた。
「待て、シゲ。近づくな。」
「遠くから」
「聞くんだ。あの吠え方、何かが起きるか、起きたんだ。ノリコを見ろ。風を読んでる、待ってるんだ。」
「風。まさか、決して使ってはならないと、化け王が仰った、人を壊す薬か。」
「分らない。けどな、何かあったんだ。思い出せ、マルが言った事、コノとタケが言った事を。」
そうだ、そうだった。
危ないと解って、行ったんだ。呼べば、離れていてもクロは戻る。下に、良村の人はいない。助けを求められれば、出来る限り。それまでは、ここで。
マルが、フラフラになりながら伝えてくれた。『悪いモノを吸って、傷つけることしか出来ない。近づけば、殺されかねない』と。
あの時、三人とも、いた。念のため、毒消しが入った竹筒を、クロの背負子に乗せた。効くかどうか、分らないが。
木菟も鷲の目も、祝辺の守の使い。責められても止めたと、雲が伝えてくれるはず。
「ありがとう、ノリ。」
「ん。良かった。」




