6-46 雲です
祝辺の守が守る、霧雲山。妖怪たちが守る、乱雲山。隠たちが守る、天霧山。
霧雲三大霊山は全て、深い山の奥にある。許しなく入れば、命がない。そういう山だ。
「天霧山の、雲です。はじめまして、長。」
「良村の長、シゲだ。雲とは、名かい?」
「呼び名だ。霧雲山では、木菟と鷲の目。天霧山では、雲。名は別にあるが、山の外では。忍びってのは、そういうモンさ。」
「そうか。で、化け王の仰せか。」
「いいや、ブラン様。良山に、変なのが入ったって。」
「その鳥。化け王の、使わしめか?」
「神に仕えるのが、使わしめ。我は化け王の臣下である。」
赤い目をした、白い鷲。ゲンから聞いていた通り。蔦山の人には、聞かせない方が良いだろう。
「入ってくれ、雲。ブラン様、こちらへ。」
「変なの、というのは。」
「耶万の、人でなしさ。」
「人でなし?」
「人を止めたヤツ。アレは、もう戻れない。」
「海の向こうにある、争いの絶えない国で使われている、痛みを消す薬か? 使うと、人が人でなくなる。その気になれば、手に入れられる。決して使ってはならないと、化け王が仰った。」
「隠れ里の長から、聞いたのか。」
「そうだ。」
「風見がソレを作って、使っている?」
「木菟よ、それは無い。そもそも、花が無い。」
「花?」
「やまとには咲いていない。いつか入ってくるかもしれないが、今は無い。」
「そんなモノを使ってまで、来たのか。」
鷲の目が呟く。
「マルさん。隠は他にも、何か?」
雲に問われ、頷く。
「わぁうい、もぉお、すぅってぇ。きぃずぅ、つぅえるぅ、おとぉ、しぃあっ、でぇきぃ、なぁい。ちぃか、づぅえばぁ、こお、されぇっ、かぁえ、なぁいっ。」
ハッ、ハッ、ハッ。い、言えた?
「マル、水よ。飲んで。」
コノが、水の入った瓢箪を持ってきてくれた。コクンと頷き、ゴクゴク。フゥ。
「こう言ったんだ。『悪いモノを吸って、傷つけることしか出来ない。近づけば、殺されかねない』って。そうだよな、マル。」
ノリに言われ、コクンと頷く。
「二人とも、止めても行くんだろう?」
木菟と鷲の目、ビックリ。
「オレも行くよ。霧雲山の忍びは強い。でも、アレはなぁ・・・・・・。三人なら、何とかなるだろう。捕まえるだけ。調べるのは、妖怪に任せろ。」
「妖怪?」
「乱雲山だよな。南から行くには、霧雲山は遠すぎる。天霧山より、乱雲山の方が早い。舟で行く、違うのか?」
木菟も鷲の目も、馬守で馬を借りて、霧雲山へ連れて行こうと考えていた。
「耶万を捕まえて、川まで運ぶ。舟に転がして、丸太に縛りつける。森川から鮎川、深川。子狐の川に入って、雷川。乱雲山へは、そうやって行くんだ。」
ノリ、助け舟を出す。
「裁きなら、釜戸山だ。耶万のは、違う。話し合いで決めることだ。だから、乱雲山。それに、馬じゃ危ない。縛っても暴れる。」
シゲに諭され、考えた。




