6-45 嬉しい、楽しい!
「ほら、カズ。前に話しただろう。岩割の帰りに、蛇の抜け殻を持った子を、牙の滝あたりで助けたって。」
「あぁ、その子。マルだったんだよな。」
「そう、マル。変だと思ったんだ。子が、あんな所で一人。蛇の抜け殻をさ、袋に入れて、首から下げて。」
マルがシュンとした。
「ち、違う。御守りなんだよな。だから、無くならないように、下げてんだよな。」
ノリ、大慌て。マル、ニッコリ。
「おばっば、さぁまぁあっ。くぅえ、たぁのぉ。」
「お婆さまが、くれたのか。良かったな、マル。」
コクンと頷く。ノリに撫でてもらい、ニッコリ。
「北山で、お婆さま。・・・・・・社の子だったのかい、マル。」
シンに問われ、戸惑う。
社の子、なのかな? 親なしっ子が、放り込まれていただけで・・・・・・。どうしよう。どう言おう。
首を傾げたまま、考え込んだ。
マルの頭を優しく撫でて、ノリが言う。
「覚えてるか、シゲ。マルが、チビの父さんに助けられた時の話。」
「チビの父さんって、谷河の狩り人かい?」
ノリのことだ。チビってのは、犬の名だろう。その飼い主だから、父さん。マルを見つけたのは、谷河の狩り人。話せないからと、釜戸山へ。
「そう。マルは、滝の上から飛び降りたんだ。いろいろ辛すぎて、嫌になったんだろう。その時、マルを助けたのが、白くて大きな蛇。で、今もマルを守ってる。その蛇の名が、おおち。いや、オロチ。」
マルの瞳が、キラキラ輝いた。
分かってもらえた、通じた。そうなの、大蛇なの。
「そうか、オロチか。」
マルもノリも、ニッコニコ。
「・・・・・・なぁ、ノリ。見えるのかい、オロチ。」
「見えない。オレに見えるのは、犬と犲。」
「あぁ、前にも言ってたな。オレの後ろにいるって。」
遠い目をして、シン。
「犬たちが吠えないってことは、良い隠か何かってコト。そうだよな、マル。」
タケさんの言う通り! みんなにも、知ってもらいたい。
「みぃなおっ、まおって、くぅえてぇ、るぅ。」
「そうか。みんなを守ってくれているのか。」
カズさんにも通じた!
「それは、心強いな。」
みんな、みんな笑ってる。
「あの、つまり。崖下へは行かない方が良いって、ことでしょうか。」
「木菟。それに鷲の目も、人だろう。隠が言うんだ。死にたくなけりゃ、止めておけ。」
センに言われ、考え込む。
「クゥゥ?」 ドチラサマ?
「クゥ。」 シラナイ。
「クゥゥゥ。」 ワルイヒトジャナイ。
「クゥ。」 ソウダナ。
ノリコ、シゲコ、シロ、クロ。静かに話し合う。
「キャン。」 ダアレ。
コハルも加わる。
「誰か、来たようだな。」
立ち上がろうとしたノリ。
「オレが行くよ。」
ニコッと、シゲ。
囲いの外に、人がいた。
「見ない顔だな。」
気がつかなかった。犬が落ち着いている。ここまで、傷を負わずに来た。ということは、忍び。
この感じ。木菟や鷲の目とは、違いすぎる。乱雲山に、忍びはいない。・・・・・・天霧山?




