2-11 見えない、なにか
何か、大きな力か。妹には、見えないものが見えた。三つの時、見えない
『なにか』のことを、他の人に言わなくなった。
「気持ちが悪い」
そう言われ、石を投げつけられたから。
ふさぎ込み、どんなに聞かれても、答えなくなった。ただ、家の者には伝えていた。
笑っていても、怒っている人には、赤いもや。なにかを諦めてしまった人には、青いもや。
傷ついている人、良い人、弱い人、他にもいろいろ。人だけじゃなく、生きているもの、すべてに『もや』がかかっていると。
爺様の爺様の、その爺様は、隠れている獣や、離れている獣の息がわかった。狩り人にとって、宝の力だ。
爺様の爺様は、洞の中の、風の流れがわかった。暗くても、進まなきゃいけない人にとって、宝の力だ。
爺様は、生きものの心がわかった。人も、獣も、木も草も、生きているもの、すべての心が。どこでも生きられる、宝の力だ。
知らないだけで、他にもいるのかもしれない。親から子へ伝わるもの。では、なさそうだ。いや、伝わるものもある。
草谷の村の祝女は、草の心が聞こえる。大田の村の祝女は、空の水の声が聞こえる。
川田の村の祝女は、土の声が聞こえる。母から娘へ。女にだけ引き継がれる。そう聞いた。
よく考えても、どういうことなのか、わからない。そんな力はある。
爺様が教えてくれたこと、すべて思い返す。
うん、ある。オレにはないけど、確かにある。
「考えるんじゃなくてね、感じるんだよ。」
ミツが言っていた。どういうことなのか、じゃない。そういうものなんだ。
生き残るために、見えないものを感じながら生きる。オレは一人じゃない。
助けてくれる人がいる。信じてくれる人がいる。守りたい人がいる。一人じゃない!
「コウ。釜戸山の村に、行ってみないか。狩り人の村や、釣り人の村がある。」
釜戸山?霧雲山じゃないんだ。
「ガッカリするな。霧雲山へは行けないが、谷河の村の、狩り人には会えるぞ。」
「ゴロさん。もしかして、オレの考えていること、わかるんですか。」
「わからん。わからんが、わかる。」
どういうことなんだろう。
「ハハハ。コウ、オレにはわかるぞ。ジロさんが持っていたような力じゃない。そんなもの、持ってない。」
よっぽど変な顔をしていたのか、ゴロさんが慌てて言った。
「コウ、落ち着け。すまん。困らせる気はなかった。オレはな。コウを、オレの子だと思っている。」
知ってます。気がついてます。
「だから、好きだ。好きなんだ。」
ありがとうございます。うれしいです。でも、どういうこと?
「その、なんだ。好きだから、わかるんだ。」
???
「ほら、コウ。あれだ。」
どれ?
「ツウの考えてること、わかるだろう。」
ツウっ?
「好きになるとな、よく見るようになる。で、何を考えてるんだろう、何が好きなんだろうと。まあ、いろいろ知りたくなる。」
そう、かもしれない。
「そうなると、わかるんだ。思うんだ。好かれたい、喜ばせたいと。」
???
「だからよく見る。考える。喜ばせたい。で、気がついたら、好きだったのが、もっと好きになるんだ。」
ふぅ~ん。そうなんだ。で?
「もっと好きになると、わかる。何を考えて、何を思って、何をしようとして、何をするのかが。」
オレは思わず、言ってしまった。
「え、そうなの。」




