6-43 止めよう
声を荒げたことなんてない木菟が、叫んだ。探していた何かが、耶万で作られているのか。
「落ち着け、木菟。」
シゲに言われ、シンの肩を掴んでいたことに気づく。
「あっ、すまない。痛むかい?」
「いいや。驚いただけさ、痛くないよ。」
「なぁ、シン。聞いても良いかな。」
「何だい、ノリ。」
「気持ちが悪くなるヤツって、煙じゃないか?」
「ノリ。知って、まさか、持って。」
「知らないし、持ってない。ノリコもコハルも気づかなかったのに、マルコが気づいたんだ。」
「犬と、子かい?」
「ノリコは知ってるな。コハルもマルコも、仔犬だ。」
いつもと同じ、朝の山歩き。森川から東へ行く日でさ。マルを連れて、歩いてた。沢を三つ越えて、少し。
急にマルコが立ち止まって、首を傾げたんだ。それから吠えて、クルクル回った。ノリコもコハルも、ジッとしている。なのに、マルコだけ。
何か、いるのかいって聞いたら、激しく吠えた。だから、ノリコとコハルに探させた。滑り落ちた跡を見つけて、下りた。そこから崖下に落ちたんだろう。血は、ついてなかった。
一人じゃ危ないと思って、上に。ノリコが上がれなくて、前足の辺りに縄を巻いている時にな。少し、臭った。嗅いだことのない匂いだ。
直ぐに離れなきゃいけない。カンだよ、そう思った。だから、離れた。
「そこへ、連れて行ってくれないだろうか。」
「止めておいた方が良い。」
「なぜだい、シゲ。」
「コノのカンだ。」
「しかし、確かめなければ。」
「木菟さん。妹の、コノのカンは、外れたことがない。祈るように言うのは、命を落とす時なんだ。オレが生き残ったのは、コノのカンを信じたからだ。」
「止めときなよ。私もさ、コノと同じ。嫌な感じがする。」
「・・・・・・シゲ。」
女の人は、カンが良い。逆らうとロクなことはない。どこでも同じさ。分かってる、それでも頼むよ、長。
「コノとタケが言うんだ。オレたちは、行かないよ。どうしてもって言うなら、おおよそを教える。」
そうですか。そうですよね。
「ありがとう。一人で行くよ。」
「オレも行くよ、木菟。」
鷲の目がいた。
「少し前から、いたぞ。クロと。」
ムロに言われ、落ち込む。あれ、言ってないよな。いつの間にって思ったコト、気づかれた?
「クゥ、ワワン。」 ズク、ツイテッテヤルヨ。
木菟の頬をペロンと舐め、尾を振る。
「良かったな、木菟。クロも行ってくれるってさ。」
「そうか、クロ。気をつけるんだぞ。」
「ワン。」 ハイ。
ムロに撫でられ、嬉しそう。
「行くぞ。」
ノリは、大の犬好き。そうです、知っています。知っていても、驚くよ。話せるんだね、犬と。
外に出ると、女の子がトコトコ走ってきた。服をチョンと抓んで、ブンブンと首を、横に振っている。そして仔犬が、グルグルと。・・・・・・またか。




