6-39 心強い味方
女のカンは、鋭い。タケもコノも、あの早稲で、穢されることなく、生き残れた。二人とも、運が良かったからではない。カンが、恐れ戦慄く程、鋭かったからだ。
コタが生き残れたのも、コノのカンを信じたから。はじめは、妹を悲しませなくなくて、言う通りにした。けれど、幾度も助けられれば、考えも変わる。
タケの兄は、違った。くりかえし伝えたのに、聞き流した。そして、あっけなく死んだ。
コノはフウに気に入られた。早稲の、長の母である。村の誰もが、コノを避けた。
タケはゲンから、狩りを教わった。ゲンがいない時は、シゲから。二人とも、強い狩り人だ。タケも、避けられた。
夜、親のいない子たちは、同じ家で眠る。女の子と男の子は、別。幼子で、歳の近い兄弟が生きていれば、同じ家で眠る。ただし、入口で。
不届き者が、少しでも近づくと、迷わず逃げた。二人のカンを信じなかった子たちは・・・・・・。
「行くか。みんな、どうだい?」
「シゲは、村に残ってくれ。行くならカズとオレ、ノリコ。どうだい?」
ノリが言った。
「そうだな。念のためクロを連れて、離れて守るよ。」
続けて、ムロ。
「生きてたら手当てして、目隠し。森川の舟寄せに、舟を浮かべて、転がそう。川の真ん中なら、獣に襲われることは、まぁ無い。」
さらに続けて、セン。
「そうだな。耶万が来たことは、霧雲山の誰かに言おう。そろそろ、木菟か鷲の目が来る頃だ。」
コタが言い切る。
「なぁ、シゲ。ソイツ、霧雲山に渡すのか?」
「乱雲山へ連れて行く。裁くことじゃない、話し合うことだ。それに乱雲山の、雲井社には、考えが読める祝がいる。」
タケに問われ、答えた。
「ねぇ、止さない? 探すの。」
コノが、祈るように言った。
コン、コンコン。
マルが拳で、入口の柱を、控え目に叩いた。
「キャン、キャキャン。」 ノリサン、デテキテクダサイ。
霧雲山の人が来ました。悪い人では、ありません。
「マルだ。誰か来たんだろう。見て来るよ。」
さすが、ノリ。鳴き声だけで、マルコだと!
「誰かな?」
マルの頭を撫でながら、優しく言う。ニッコリ笑うマルの足元で、マルコが尾を振っている。
「ワン。」 ズクデス。
話し合いをしていた家から離し、話を聞かれないように、木菟の足元で、通せん坊をしていたノリコ。
どんな話をしているか、犬には分からない。けれど他の人には、聞かせない方が良いのだろうと思った。
「キャン。」 ウゴクナ。
コハルはグルグル、走り回っている。
馬守の犬は、人でも馬でも何でも、逃さないように、走って追い込む。懐いているわけではない。
「そうか、分かった。」
ノリコとコハルに声を掛け、ニッコリ。それから、木菟に言う。
「少し、そこで待ってくれ。」
ノリが家に戻った。しばらくして、シゲが出た。
「中で話そう、木菟。」




