6-36 賢明な判断
フンフン、フフゥンと歌うように、軽やかに歩くマル。マルコもルンルン。大蛇も楽しそう。
「キュウゥ? キャンキャン。」 ナンダロウ? シラナイニオイガスル。
マルコは許しなく、駆け出さない。人の子は直ぐ、転ぶから。大好きなマルを守るため、釜戸山で学んだ全てを活かしている。
「良村のでは、ないな。」
悪い人?
「足を滑らせて、転げ落ちたようだ。」
助けなきゃ!
「悪い人でも、助けるのか?」
大蛇・・・・・・。その、悪い人なの?
「この山は冷える。夜は凍えるほど、冷える。なのに、いる。ということは、罠に掛かって動けぬか、潜んで居るかだ。」
「ん? どうしたマルコ。何か、いるのかい?」
「キャン、キャキャン。」 イマス、ハナレタトコロニ。
変な臭いがします。気持ちが悪いです。
「ノリコ、コハル。どうだ、臭うか?」
釜戸山の犬は、他の犬より鼻が利く。まだ仔犬だが、いろいろアレコレ、教え込まれたはずだ。
「ゥワン、クゥゥ。」 コノシタニ、イルヨ。
ずっと下かな、クンクン。ノリさん、ココ!
「踏み外したか。マル、ここで待てるな。」
コクンと頷いた。
「マルコ。マルを守れ、離れるな。分かったか?」
「キャン。」 ハイ。
「コハル。マルコと共に、マルの側にいろ。」
「キャン。」 ハイ。
待ってます。いってらっしゃい!
「ノリコ、行けそうか?」
「ワン、ワワン。」 ハイ、イケマス。
滑り落ちないように気をつけながら、木の根元に括りつけた縄を掴み、ゆっくりと。しばらくして、マルは急に怖くなった。少し下りた辺りで気づき、ノリが言った。
「戻ってくるよ。だから、そんな顔するな。」
コクンと頷き、ニコッと笑った。
「ク、クゥゥン。」 ノリサン、もどろう。
スゴイ傾きから、いきなり崖っぷち。いくらノリさんでも、一人じゃ・・・・・・。
「こりゃ危ない。戻ろう、ノリコ。」
「ワン。」 ハイ。
オヨヨ。あれ? す、滑るぅ。
「ノリコ、おいで。」
前足の付根あたりに、グルッと縄が巻かれた。
「痛くないかい?」
「ワン。」 ハイ。
木に結わえられた縄に掴まりながら、滑らないように上がるノリさん。オレに巻かれた縄は、ノリさんの腰にも巻かれている。
ノリさんが引っ張ってくれるから、滑りながらでも登れた。引っ張り上げてもらって直ぐ、マルがノリさんに抱きついた。
ウン、許す。オレは、後で良い。
「戻ったよ、マル。」
頭を撫でてもらい、ニッコリ。
「村に戻ろう。オレ一人じゃ、下りられない。」
コクンと頷くマル。マルコとコハルは、ノリコのそばで仲良く、尾を振っていた。




