2-10 危険人物
「どこ行った。」
岩の辺りから、そう遠くへは行ってないはずだ。この崖を登ることもないだろう。
「連れがいた。」
ツウとかいう女か? 草谷じゃなく、稲田の子だったのか。そうなら攫って、三鶴に引き渡す。
「逃がさない。」
逃がしてやるものか!
「十だったか。」
娘を連れて滝を登る? いや、ない。洞でもあるのか。
引くと言って、見えないところまで下った。そうでもしなけりゃ、捕らえられない。
「いつもと同じだ。」
心を折って、従える。見込みがなければ、囮として使い捨てる。
「コウは使える。」
だから泳がせた。村の子だから、大したことはない。そう思った。やっちまった。
「ジジイに教わったとか言ってたな。」
狩り人の子だったのか。
岩から川の源まで。隠れるとすれば、崖に生えた木くらいだ。山に入った?
「いや、ない。」
だとすると、滝か。子が登れるようなもんじゃない。
「洞でも、あるのか。」
そうとしか思えない。イヌをけしかけ、探させているが、見つからない。
「においがしないのか。」
においがしないなら、水の中。滝つぼに入った? いや、ない。コウは生きようとあがくヤツだ。死のうなんて考えない。
「逃げられた。逃げられた。逃げられた。」
滝の裏に何かある。イヌが嫌がって、近づこうとしない。まあ、いい。
「洞か。」
広いな。奥へ続いている。導き手がいなければ、迷って出られなくなる。入らないほうがいい。コウは賢い子だ。奥へ進むようなことは、しない。
「いや、ジジイか。」
洞にくわしければ、知っている。川田のジジイなら、知ってるか。近づくなとか言っていたな。
娘を連れて逃げるなら、火吹きの山か。もし、この洞が上につながっていたら。
「どこに出る。」
ここから近い狩り小屋は。
「鷹山か。」
狩り人の子なら、他の狩り人とつながってるか。
「張るか。」
どこを張る。人手がいるな。とりあえず、上に登るか。谷にはいないだろう。ここからなら。
「ジジイに会わなけりゃ、なんとかなる。」
ここいらの狩り人には嫌われている。どうする?
「イヌ! 探せ。」
「ハハハハハッ。逃がさない。」
逃がさない。逃がさないぞ!
「楽しいなぁ、おい。」
コウ、ツウ。待ってろ!




