1-2 化け王
人ではないバケモノ。命を吸って生きている。魂を命に絡めながら、一滴残らず血を吸うことで、すべてを奪うことが出来る。
ただし、才は奪わない。奪えば血が湧き、細胞が燃え、死に至る。収集の才を持たなければ。
才は、所有者が死ぬことで、血縁へ受け継がれる。収集の才に奪われた才は、収集者の才となる。ただし、一代限り。奪った才は、放たれる。
収集者は、刑の執行を強いられる。王子だろうが、王女だろうが関係なく。その後、離れにある塔の主となる。そこが化け王の城。
城という名の塔には、いくつもの牢がある。人質や捕虜が入れられ、管理を任されている。
どこが城だ、どこが王だ、看守じゃないか。
ある晴れた日。隣国の王子が送られてきた。紫がかった青い瞳、夕日のように輝く髪。華奢で色白。そんな王子は懇願した。殺してくれと。
人質の王族。殺すわけがない。躊躇うことなく、牢へ。
化け王は理解できなかった。なぜ隣国は、この美しい王子を差し出したのか。これだけ美しければ、他国と繋がれるはず。何かあるのか。
「王子。怯えることは、ありません。」
「私は、恐ろしいのです。化け王よ、私を殺して下さい。そして、この苦しみから救って下さい。」
「苦しみ。」
「聞けば、王。才を奪えるとか。」
「私は収集者。呪われた王です。」
「私には、創造の才があります。」
「創造。」
「はい。受け継いだ才ではありません。」
「どのような。」
「思うことで、新たな才が。」
驚いた。収集者でない限り、持てる才は一つ。
「では、なぜ。」
「わかりません。ただ。」
「ただ。」
「母も庶子です。氷の才がありました。」
「選ばれし才ですか。」
「はい。あらゆるものを凍らせます。」
「新たな才を凍らせ、破壊したのですね。」
「母は旅立ちました。私は恐れられ、こちらへ。」
思うだけで新たな才を持つ。と同時に、死ぬ。譬えようのない苦しみ。母を失い、死ぬ勇気もなく。
「化け王よ。私の才を奪って下さい。王は慈悲深く、痛みを与えず奪うと聞きました。私は弱い。創造すれば死ねるのに、出来ない。怖くて、恐ろしくて。」
王子が縋るように言った。
「お願いします。どうか、どうか。」
化け王は思った。救いたいと。
「わかりました。」
命も魂も奪わず、才だけを奪う。賭けだ。けれど、苦しみ怯える王子を救いたい。
息を吸い、吐く。才は魂に絡みついている。命の網を潜り抜け、絡んだ才を魂から剥がす。ゆっくり、ゆっくり。傷つけず、そっと。
剥がしながら丸めて、糸を紡ぐように巻いてゆく。