6-33 タカ、考え中
センたちを乗せた舟が、ゆっくり進む。悪しきモノが近づき、伺い、サッと逃げてゆく。
大蛇の力は、抜け殻にも宿る。蛇の隠は、己が認めた者にしか、抜け殻を渡さない。
もし他の者の手に渡れば、抜け殻は力を失う。主の元へ戻れば、再び力を持つ。
センが持つ抜け殻は、マルの手から離れた。しかし、貸し出されただけ。マルが自ら、センたちの身を案じて、持たせた。そのことは、大蛇も知っている。だから助けた。
ひと足先に良村に戻ったが、水にいる限り、禍が降りかかることはない。
良村は新しい村だが、狩り人と釣り人には、良く知られている。村長のシゲ、樵のカズ、犬好きのノリ、商い人のシン。この四人は特に。
カズの作る舟は強く、美しい。人にも犬にも、優しい作りになっている。だから、パッと見分けがつく。
良村の舟、舳に犬。その犬の首には、フワリと布が。そんなこと、他ではしない。
舟の違いが分らなくても、首に布を巻いた犬が乗っていれば、直ぐに分かる。
ぶつかってしまっても、どうしようもなければ責められない。狙ってぶつかれば、徒では済まない。
狙ってぶつけて、犬が水に落ちでもすれば、命は無い。そんな噂が、まことしやかに囁かれている。
スイィィ、スイィィと、何事もなく進む。優しい風に吹かれ、気持ちよさそうなノリコ。慣れた手つきで、舟を操るセン。すれ違う舟人たちに、ニッコリ。
すれ違う舟の人たち。なんとなく、避けてるみたいだ。ノリコは尾を振って、楽しそうだけど・・・・・・。
蔦山での、張り詰めた感じ。あれは、何だったのか。つい先のことなのに、遠い昔のことのよう。
きっと良村の人たちは、戦い慣れているんだ。人だけじゃなく、犬も。
考えてみれば、いろいろ変だ。良村には、女の人が少ない。コノさんと、タケさんだけ。
口がきけない、話せないのは、女の子ばっかり。他の子も、良村の人は避けないのに、オレたちは避ける。
男の子たちは、なんとなくだけど、大人みたい。それに、女の子を守ろうとする。
「どうした、タカ。考え事か?」
「はい。・・・・・・みんな、良い人です。」
「ん?・・・・・・そうか。」
みんなが、どこの誰をさすのか、分からない。
「センさん。オレ、犬が欲しいです。犬と狩りが出来るように、なりたいです。」
「そうか。・・・・・・オレは釣り人だからな。そういうことなら、タケかムロに聞け。」
「えっ、と。シゲさんは。」
「シゲは、誰かと狩ってた。シゲコを引き取ってからだ、連れて行くようになったのは。」
「そう、ですか。」
とっても懐いているけど、長いのかな?
仔犬の時から、知ってますからね。元の飼い主が、育犬放棄して、エサをやらなかったので・・・・・・。
小さいコは、犬でも人でも、放っておけないタチなんです。