6-30 濃霧に注意
「ノリコ。どうした、何かいるのか?」
「クゥゥン?」 イルケド、ネコダヨ?
「・・・・・・敵じゃ、なさそうだな。」
「ワンッ!」 ミカタデス!
「帰るぞ、タカ。」
「はい。父さん、いってきます!」
キラッキラの、ニッコニコ。
「気をつけてな。センさん、倅を頼みます。」
タカの頭を撫でて、父は頭を下げる。
「わかった。」
「セン。落ち着いたら迎えに行くと、ツネに。」
倅でも、娘でも。子を思う気落ちは同じ。
「伝えるよ。」
ニコッ。
軽い足取りで、山を下りる。敵を遣り過ごしながら、ゆっくり、ゆっくり。登るより、下りるほうが危ない。転げ落ちれば、見つかってしまう。
舟だ。木に立てかけただけなのに、見つからなかったんだな。良かった。
「クゥ。」 トマレ。
いる。悪いの、二人。・・・・・・四人!
「待て。」
タカの肩を掴み、低く小さな声で言った。
「えっ。」
なっ、なに。なに、なに?
「来い!」
ススッと隠れ、待つ。・・・・・・いた!
・・・・・・大蛇、だっけ。村に残って守るんじゃ、ないの? マルから離れるなんて、何があった。
「そう、怖い顔をするでない。このままでは見つかる。我が霧を出し、隠そう。」
隠すって、どうやって。
「こうやって。」
地の底から、冷たい何かが溢れ出た。霧が出て来たな。そう思ったら、濃い霧に包まれた。
「オイ、止まれ。」
ボチャン。ブクブクブク・・・・・・。
「オイ!」
ボチャン。ブクブクブク・・・・・・。
「な、なんだ。なにがっ」
ボチャン。ブクブクブク・・・・・・。
「だ、誰か。いなっ」
ボチャン。ブクブクブク・・・・・・。
クンクン。うん、いない。
「クゥ、ヮゥ。」 イクヨ、サア。
悪い人は大蛇に任せて、サッサと行こう。
「タカ、行くぞ。」
「はい、センさん。」
子狐の川に舟を浮かべ、乗り込む。スゥゥと、何かに引かれるように進んだ。
「わぁぁ、早い。」
「流れに乗ったんだ。」
に、しては・・・・・・。
「クゥン?」 ドウシタノ?
大蛇の子かな? 小さいのが、引っ張ってくれてるよ。だから早いんだ。
「ノリコの力か?」
トタトタッ。クイッ。
「ん、これか?」
マルが貸してくれた、蛇の抜け殻。そういえばノリ、言ってたな。『蛇の抜け殻は、御守りになる』って。
そうか。オレには見えないが、守られているんだな。帰ろう。帰って、お礼を言おう。