6-29 決まったぁぁぁ
風見がどんなに大きくても、兵を送り続けることは出来ない。また、兵が多ければ多いほど、食べ物が要る。
近くに村があれば奪えるが、ない。だから必ず、底を突く。・・・・・・甘い、のか?
「セン。なぜ、そう思う。」
「風見は寄せ集め。はじめから、使い捨てる気だ。」
確かに。風見は寄せ集め。早稲は戦い慣れているからか、暴れない。しかし、他は『もっと寄こせ』と大騒ぎ。そりゃそうさ。命がけで戦っているのに、食べ物を少ししか貰えない。
・・・・・・なら、どうして?
「この暑さだ。腐るのが早い。血の匂いを嗅ぎつけ、熊が増えた。違うか?」
「その通り。増えた。」
夏の熊は痩せている。腹ペコで、ダルそうにしている。いつもなら、川に入って魚を捕る。今は、捕らなくても骸がある。
「骸で腹が膨れた熊は、森へ戻る。ってことは、だ。」
人の味を覚えた熊が、森の中をうろついている。危なくて、助っ人が来られない。人が来なければ、物も。
蔦山の村が豊かでも、いつか底を突く。そうなる前に動くだろう。
「待っているのか!」
「そうだ。戦ってのは、長を殺せば終わる。長ってのは、村を守るモンだ。良い長ならギリギリで、必ず出て来る。」
早稲の長みたいなのは、真っ先に逃げるけどな。蔦山の長は、良い長だ。村を守るために、備えている。釜戸山の灰が降る村じゃ、知られた話さ。
早稲も風見も、戦を仕掛ける前に、いろいろ調べる。調べ尽くす。
他の村や国と、あまり付き合いがないこと。蔦山が豊かな山だということ。長の娘が身重で、良村にいること。子がいくらか、娘について行ったこと。
「まさか、良村に!」
「いいや。」
「良かった。」
「シシを討て。終わらせるんだ、長。」
迷っていられない。そうだ、終わらせよう。良村から、多くの矢が届けられた。毒も、傷に効く草も。
届けられた食べ物の中には、干し貝もあった。粥に入れて、みんなで食べよう。それから仕掛ける!
「ありがとう、セン。」
「ワン、ワワン。」 キメロヨ、ツタヤマノ。
長を励ましてから、クイッと横を向いた。
「いつまで隠れてるんだ、ネコ。オマエ、神の使いだろう。しっかり働け。しっかり守れ!」
「なっ! 犬よ。見えるのか。」
「見える。それよりネコ、気づいてるんだろう? この山、モヤモヤしてるぞ。」
こ、コヤツ。ただの犬では無い。
「蔦神の使わしめ、ミャアだ。」
「良村の釣り人、ノリの犬。ノリコだ。」
「ノリコ。蔦山に残って」
「断る!」
「えぇぇぇぇぇぇ。ちょっとくらい」
「ノリさんと離れて暮らすなんて、嫌だっ!」