6-27 運に頼るな
弓と矢、食べ物。傷に効く草、矢尻に塗る毒、乾かした瓢箪。
「せ、セン。これは!」
矢尻を見て、驚いた。サメの歯だけではない。獣の骨を削って、尖らせた物もあった。
「射る前に、これを塗ってくれ。」
「ん? こ、これは!」
「毒だ。痺れて、動きが鈍くなる。舐めたり、触れた手で目を、こすらないでくれ。」
「あぁ、わかった。・・・・・・え。」
「傷に、良く効く。毒消しもある。使ってくれ。」
良村は山奥にある。獣の骨は兎も角、海の毒やサメの歯なんて、そう手に入る物ではない。それに、この草。良く効くが、なかなか採れない。
何より、食べ物だ。戦いが長引いて、蓄えが少なくなっていた。ヒエ、アワ、米。干し貝に、干し肉。これだけあれば、食いつなげる。
「ありがとう。ありがとう、セン。」
助かった。心から、そう思った。
「喜んでもらえて、良かったよ。」
蔦山の人たち、困ってたんだろうな。食べ物を見て、ホッとしていた。飢えてはいないようだが、この戦。まだまだ、かかりそうだ。
備えていた食べ物の残りが少なくなると、動けなくなるからな。
「ワン。」 ヨカッタネ。
センの近くに大人しく座り、尾を振るノリコ。
「そうだ、センさん。ノリコに干し肉、やってもいいですか?」
「残しておけ。この戦、長引くだろう。」
「はい・・・・・・そうします。」
タカがシュンとした。
「クゥン?」 ンン?
センさんが言ってるコト。正しいよ。戦じゃなくても、食べ物は要る。戦じゃなければ、他から貰ったり出来るけどね。貰えないでしょう? それにココ、山だし。
あんな細い川から来たってことは、大きな川は通れないんでしょう? それに、いたよ。悪いの、いっぱい。
ウフフ。センさんに撫でられた。ねえ、帰ろうよ。
「長、戻るよ。そうそう来られないが、何か要る物があれば言ってくれ。出来る限り、揃える。」
「ありがとう、セン。その、言い難いんだが。」
「食べ物か?」
「いいや。いや、それもだが、違うんだ。タカに、戦い方を教え込んでほしい。この子は賢いが、甘い。」
「私からも、お願いします。倅は運が良い。その運に頼って、ノンビリしています。鍛えてやってください。」
「オレは釣り人だ。教えられることは少ない。だから狩り人に託す。それでも、良いか?」
「はい。よろしくお願いします。」
「オレからも、お願いします。」
父を真似て、頭を下げるタカ。
戦い方、か。オレたちのは、奪いまくるヤツだからな。子には教えたくない。だから、守り方を教えよう。
蔦山は、良山に少し似ている。良村の守り方なら、蔦山も守れるだろう。村の子たちと共に学べば、繋がりも強くなる。
オレたちは、早稲にいた。早稲を出たからといって、それは変わらない。どうしたって、チラつく。
あの子たちには、真っ直ぐ。同じ思いなんて、させたくない。そのためには、知ってもらわなければ。良村は、良い村だと。
他の村との繋がりが強くなれば、知ってもらえる。早稲の影から、抜けられるはずだ。