6-24 着いたヨ
どんどん濃くなる霧の中。ゆっくり、ゆっくり、確かめるように進む。
いつだったか忘れたけど、ずうっと昔。蔦山の西に細い川が流れてるって、誰かが言った。『魚でも釣りに行こうかな』って言ったら、父さんに言われた。『決して、近づくな』って。
あの時は、『何で? 』って、思ったけど・・・・・・。怖い。恐ろしい。
魚川も深いけど、ゆったりしている。でも、この川は狭くて、深くて、流れが早い。
ノリコって、他の犬とは違うな。何となくだけど、そう思った。でも、違うなんてモンじゃない。凄い!
犬は人より、鼻と耳が良い。目は、あんまり良くない。それなのに、ハッキリ見えている。たぶん。
ガサ、ガサガサ。ヒュゥゥゥゥ。ガサッ、ザザザッ。ヒュゥゥゥゥ。
首筋に何が、冷たいモノが。ゾワッとして、思わず掌で包んだ。ビクッ。冷たい! 指先が氷のようだ。
「ウヮン。」 ツイタヨ。
ノリコが小さく吠えた。
「ん、どうした。」
尾をフリフリ。鼻先でクイクイ。そして、ピョン。
「お、オイ。」
賢い犬だ。遠くへ行くことはない。と、いうことは、ここか?
ノリコが飛んだ方へ舟をつけた。すると、ノリコが舟に前足を乗せ、尾を振った。
「そうか。」
ノリが言ってたな。『ノリコが教えてくれる』って。霧が濃すぎて見えないが・・・・・・、敵も同じか。
「クゥ、ゥ。ウヮン。」 ソウ、ココ。ツイタヨ。
気取られないように、控え目に吠えた。そう遠くない所に、いるからネ。
「タカ。静かに、舟を下りてくれ。」
「はい。」
小さな声で答えて、そっと下りた。
「これ、背負ってくれ。食べ物だ、重いぞ。」
オレ、十ですよ。これくらいっ、お、重い。
「ノリコ。いけるか?」
犬用の背負子を、ズレないようにつけ、矢を乗せた。尾をクルンとさせ、振っている。ということは、いけるんだろう。
因みに、犬用の背負子を考えたのは、ノリ。作ったのは、カズ。犬が歩きやすいように、傷つかないように、しっかりと作られている。
「クゥゥ、ク、クゥウ。」 センサン、フネハ、コッチ。
ここに残したら、見つかっちゃう。舟を壊されたら、帰れなくなる。だから隠すんだ。
「そうだ、忘れてた。」
森川から出る時、ノリに言われた。『着いたら舟を、森の中に隠せ』って。
背負子で運べない分を、タカに持たせた。舟を引っくり返して頭に乗せ、運ぶ。スタスタ歩くノリコの後ろを、黙ってついて行く。しばらく進むと、森に入った。
「クゥゥ、ゥヮン。」 コノキニ、タテカケテ。
この木、舟と同じくらい。立てかければ、見つからないよ。倒れないように、気をつけてね。
「そうか。この木に、こう、か?」
「ウヮン!」 ソウ!
見つからないように、ヒソヒソ話すセンとノリコ。タカは目を輝かせ、思った。スッゲェ!