6-23 子狐の川
山裾の地を抜け、森に入る。大川、乱れ川を通り過ぎ、どんどん進む。深川の真ん中あたりを、ゆっくりと。
気がつくと、左の方へ。それから、細い川に入った。ゆるやかで、狭い川。山と山の間を縫うように、静かに流れている。
櫂を上げ、舟に引き込む。霧だろうか、辺りがモヤモヤしはじめた。
朝の良山と同じだ。ひんやりとした風が、絡みつくように吹いた。思わず、ブルッとする。
「この川はな、気を抜くと竿を取られる。小さいが、手強い。」
「ウゥゥ、ゥッ。」 キヲツケテ、ソコ。
ここは響くから、吠えない。低く呻って、知らせる。舟の先。腰を落とし、鼻先で示す。
ノリさんとなら、呻らない。鼻先と尾だけで、分かってくれる。
センさんも、良い釣り人だヨ。ノリさんは川、センさんは海。ウン、そうそう。ネッ!
飼い主に似たのか、ノリコもカンが良い。隠の素振りを嗅ぎ分ける力が、特に優れている。
化かし合いを好む妖怪や隠から、主と舟をシッカリと守ることの出来る。それが、ノリコ。
水による災いで、命を落とす。そう珍しいことではない。多くは生まれ育った地へ、迷わず帰る。親や子、思い人など。残してしまった人を、ずっと側で見守るために。
帰りたくても、帰れない。戻りたくても、戻れない。そんな魂が彷徨い、闇に飲まれる。そうして、悪しき妖怪や隠に。
舟が多く行き交うような所でも、呼ばれることがある。小さな舟を引っくり返すくらい、直ぐだ。
水から上がれず、足を引っ張られ、ブクブク。気が遠くなって、沈んで、そのまま・・・・・・。
水は、怖い。多くの恵みを齎すが、多くの命が奪われる。海だけじゃない。川も、湖も。
子狐の川には、そうしたモノが多い。マルが怖がった、底なしの湖も、そう。恐ろしく深く、妖しく悩ましい。
「ウゥ、ゥ。」 ソコ、ミギ。
「ウゥゥ、ウッ。」 ツギ、ヒダリ。
クルッ、フリフリ。ピタッ、フリフリ。声、鼻先、尾で、ササッと示す。
海と川は、全く違う。分かってはいたが、これ程とは。少しでも気を抜けば、真っ逆さま。ツツッと、汗が額を伝う。
ノリの犬好きは昔から。森で仔犬を拾ってきた。育たないだろうなってくらい、小さな犬。
舟釣りに連れて行くと聞いた時は、呆れた。いや、置いて行けよと。声には出さなかったが、心の中で。
食べ物を求めて、漕ぎだした。その殆どが、帰ってこなかった。センは釣り人の子だ。舟の扱いに慣れている。ノリは違う。それでも、生き残った。
今なら解る。ノリコは他の犬とは、違う。もし、この舟にノリコを乗せていなければ、引っくり返っていただろう。
ノリから、ノリコを連れて行けと言われた時、断らなくて良かった。センは心の底から、有難いことだと思った。




