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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
良山編
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6-22 蔦山へ行く、舟の中で


「センさん。マルは、その・・・・・・。」


「話せないのは、なぜかって?」


「はい。」


「カエ、タキ。マルだけじゃない、話せないのは。みんな、いろいろあった。マルに何があったのか、知らない。話せなくなる“何か”があったんだ。」



「カエには何が、あったんですか。」


「カエ、タキ、二人とも。親や兄姉を・・・・・・。目の前で殺された。」


「えっ! ってことは、その。」


「残されたんだ。血を浴びて、な。」



良村よいむらに来てぐ、どもりながら話すカエを、からかった。さらっと軽く、の、つもりだった。


それはもう、叱られた。怖かった。それから口をきかない子には、近づかないようにした。





父さんが昔、話してくれた。鳥の川をずっと下ったところにある、早稲わさの村の話。


良村の人たちは、早稲に逃げ込んだ人たち。その、生き残り。悪い長たちが、釜戸社かまどのやしろで裁かれて。それで、早稲を出られた。


そうだ、そうだった。なんで忘れてたんだ、オレ。さらっとでも、軽くでも、からかったりしちゃ、いけなかったんだ!




蔦山は強い。攻めより、守り。守るために、強くしている。そんな山にある、小さな村。


狩り人の子だから、獣を狩ることだってある。初めて狩ったのは、兎だった。鳥を狙ったのに、当たらなかった。それで落ちた矢が、たまたま兎の背に。


とどめを刺す時、躊躇ためらった。父さんに言われたんだ。『やれ』って。それで、思い切って、ブスッと。しばらくの間、恐ろしくて動けなかった。


兎で、動けなくなったんだ。もし、目の前で。そんなことになったら、オレは・・・・・・。



何も言えなくなった。オレは、呆れるくらい愚かだ。





「タカ。良く覚えておけ。人ってのはな、罪なイキモノだ。蔦山のように、穏やかなのは珍しい。山だからな、守りやすい。でもな。低い、平たい地では、戦に次ぐ戦。奪い奪われ、血の雨が降る。」


そ、そんな。じゃ、じゃあ、その。まさか!


「魚川は、しばらく通れないだろう。蔦山は強いからな。攻められても、直ぐにドウコウならないさ。」


・・・・・・。


「タカ。良村に五人の子が来たのは、なぜだ。」


「ツネさん一人じゃ、心細いから?」


「違う。蔦山の村が攻められて、皆殺しになっても、村を立て直すためだ。そうなれば、ツネさんが長。生まれた子が、次の長になる。男でも女でもな。」


「そんなっ!」


「落ち着け。まだ、そうなるとは。」


「でも、でもっ。もし、もし!」


「もしも、の話だ。そうなるとは限らない。」


そうだ。まだだ。でも・・・・・・。



「学べ、タカ。蔦山の長に認められた、五人の子の一人。村を背負う、狩り人になるんだ。」


「はい、学びます。いっぱい、いっぱい、学びます。」


「それで良い。」


「ワン。」 マナベヨ。


コイツ、甘ちゃんだからな。センさん、もっと言ってやって!



話しながら、セッセとかいを漕ぐタカ。十になったばかり。大人になるまで、あと二年ふたとし。しっかり学んで、長を支える狩り人になれ!


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