6-20 陣痛が始まった
夕餉の後、ノリが言った。『そろそろだな』と。その一声で動いた。いつ、はじまっても良いように。
最も馬の扱いが上手いシンが、馬守へ。
「っつ、いっ、いたっ。」
「・・・・・・えっ、あっ、落ち着いて。」
ツネのために造られた産屋。コノとタケが代わり合って、寝起きしていた。
夜が明ける前。コノが急いで整え、タケを呼ぶ。
時を計るための、仕掛けを動かす。痛みと痛みの間を知るために。お産の痛みは、はじめは、ゆっくり。だんだん、強く、強くなる。
二人とも、産んだことはない。しかし、幾度か立ち会った。お産は命がけ。同じ子がいないのと同じで、お産だって違う。そのくらいは知っている。
「呼びに行ってくれたから、来てくれるわ。」
「そうっ・・・・・・フゥ。」
コノに腰を摩ってもらい、楽になった。
「こりゃ、驚いた。当たるんだねぇ。」
聞いてはいたけど、スゴイね。
「ノリのカン。外れたこと、ないんです。」
「そうそう。いっつも、当たる。」
コノとタケ。見合って、ニッコリ。
「アサさん、おはようございます。」
「ツネさん、おはよう。で、どう?」
多くの子を取り上げたアサ。馬守だけではなく、他の村からも呼ばれる“かかさま”である。
ウロウロ、ウロウロ。ウロウロッ、ウロウロ。
「まるで、熊だな。」
ねえ、大蛇。どうしてみんな、ウロウロしてるの?
「子を産めるのは、女だけだ。男に出来ることは無い。だから、ウロウロするのだ。」
そっか。ん?
「どうした、マル。」
さっき、いっぱい湯を沸かしてたよ。
「あぁ。あれはな、嬰児を清めるために使う。」
清める? 生まれたばかりなのに、穢れてるの?
「いや、その清めではない。嬰児はな、母の胎の、水の中で育つ。息が出来るまで育ったら、外に出て来るのだ。臍の緒と共にな。」
その水、濁ってるの? それとも、ドロドロ?
「ウゥゥゥン。我にも分らぬ。触れたことがない。が、生まれたばかりの子は、見た。」
どんなだった?
「真っ赤だった。」
そ、それって・・・・・・血? 血まみれ?
「そうではない。肌が薄く、血が透けて見えるだけのこと。マルが考えているようなコトではない。」
良かった。
「キュウ?」 マル?
蛇と話してるんだよね。何を話してるの? エヘヘ。撫でられたっ。わぁ~い、抱っこ! スリスリ。
「良かったな、マルコ。」
「え?・・・・・・蛇さん?」
「そうだ。大蛇だ。」
「マルコです。よろしく?」
「なぜ、? なのだ。」
「いや、なんとなく・・・・・・あれ?」