6-15 良村に、託しましょう
マルという名の、女の子。食べ物を受け付けない。まるで死を望むように。
何があったのか、少し調べただけで、出るわ出るわ。どれだけ言えない、知られたくないことを隠しているのだろう。
ここは釜戸山。決して誰からも、傷つけられない。モリモリ食べて、グッスリ眠れる。なのに、どうして? こんなに美味しいのに。ごはん、食べられないの? どこか痛いの?
エイは悲しくなった。釜戸山の灰が降る村にも、いるんだ。悪い人に、心を壊された子が。
地が震えて、戦になるより、ずっと前から。そう聞いた。
調べは進んでいる。進んでいるけれど、調べれば調べるほど、考えられないようなコトがドンドン、ポンポンと。
すべて明るみに出るまで、時がかかる。それまで、マルの命が持つのか。
今わかっているだけで裁けば、逃げられる。逃がしてはいけない。マルの他にも、いるかもしれない。焦って進めれば、救えない。
「エイさま。守り長が急ぎ、お伝えしたいと。」
まさか!
「マルに、何か。」
「いいえ。良村からシゲとノリが、マルを迎えに。」
カイの話を聞いて、ホッとした。
小さくなって膝を抱えていたマルが、パッと駆け出した。『迎えに来たよ』と言われ、しがみつき、ウンウンと頷いた。
守り人の村の、離れの家で話し合い、良村に。そう伝えると、嬉しそうな顔をして、バッと抱きついた。ニッコリ、そしてグゥゥゥゥ。何も食べようとしなかったマルが、粥を食べた。ゆっくりと、美味しそうに。
シゲになら、マルを任せられる。それに、ノリ。ビックリするくらいの犬好きで、犬と話せるとか。
良山は冷えるけれど、豊か。良村は備えも多く、強い。出来たばかりの村で、作物が育つかどうか、わからない。
しかし、良い商い人がいる。シンは商いに長けていて、狩った獲物を、作物や織物など、暮らしに欠かせない物と取り換えていると聞く。
「良村に、託しましょう。」
急いで村に戻ったカイ。離れの家に入って直ぐ、驚く。育たないかもしれないと、犬飼いが言っていた仔犬を抱いて、マルがスヤスヤ眠っていた。
幸せそうなマルと仔犬。優しく見守るノリとノリコ。少し離れて、シゲ。
起こすのは可哀そう。待てば・・・・・・。釜戸山から良山まで、離れている。待ち人の家は、いっぱい。だからこのまま、離れの家で泊まり、朝早く、出で立つことになった。
裁きがどうなるか分らないが、親元へ戻すことはない。守り長だけではない。釜戸社の、祝の許しを得たのだ。
マルが大人になり、村を出たいと申し出るまで、良村で暮らす。
体につけられた傷は癒え、痣も傷跡も消えるだろう。しかし、心の傷は消えない。言の葉だって、ずっと出ないかもしれない。
それでも良村になら。良村の子としてスクスクと、幸せに。