2-8 段の滝
話を聞いたツウは、泣き出しそうになった。怖くて、怖くて、震えが止まらなくなった。
「ごめんね、ツウ。怖い話をして。」
コウは、なるべく落ち着いて話した。でも、怖がらせてしまった。
「話してくれて、ありがとう。私、聞いてよかった。知らなかったら、三鶴の長に差し出されて、逃げて。早稲の村に、助けを求めてたかもしれない。」
いろんなことを考えて、思ってしまったんだろう。ツウは、ポロポロ涙を流して、うつむいた。
「ツウ、守るよ。オレ、ツウを守る。」
コウは優しく、そっと頬にふれて、言った。
「ツウ、見てごらん。」
「わあ、水が青い。光ってる。」
目をクリクリさせている。オレも、はじめて見た時は、驚いたなあ。ゆっくり見せてあげたい。けど、急ごう。
「ツウ、落ち着いて聞いて。」
「なあに。」
「今から、あの中に入るよ。」
「えっ、滝の中に入るの。」
そりゃ、驚くよなぁ。
「さあ、行こう。」
ツウは取り乱すことなく、ついてきた。
「滝の中に入るけど、水が落ちて、白くなっているところには近づかないで。引きずられて、出られなくなるからね。」
「わかったわ。」
滝つぼに引きずりこまれないように、ゆっくり進んだ。
「ツウ、これから滝の中に入るよ。水に叩かれて痛いけど、すぐだから。」
滝の裏に、広い洞があった。とても寒い。でも、そんなに暗くない。コウが袋から縄を出して言った。
「これから奥に行くよ。上を見て。」
垂氷のようなものが、いっぱいある。
「下を見て。」
竹の子のようなものが、いっぱいある。
「ここはね、人が生まれる前から、少しづつできた洞なんだ。でね、洞から外に出られるんだ。」
「コウ、物知りね。」
ほめられた。いや、落ち着け。
「暗くて、狭い。滑るし、上から水が垂れる。ピチャってするとね、びっくりして、はぐれるんだ。だから、結わえるよ。いいね。」
縄を腰に、しっかり結わえる。暗くて滑る洞穴は、とても危ない。
「ツウ、手をつなごう。」
「うん、わかった。」
転ばないように、ゆっくりと歩いた。
奥へ、奥へと進む。だんだん、狭くなっている気がする。なんだか怖い。でも、怖くない。コウがいる。一人じゃない。
ツウは思った。川で、コウに会えてよかった。もし、あの時。気づいてもらえなかったら。もし、あの時。話しかけられなかったら。
捕まっていたかもしれない。大水に飲まれていたかもしれない。死んでいたかもしれない。
いろいろあった。でも、生きている。いつか必ず、コウの助けになろう。できることをしよう。織もの、編もの、器づくり。畑や田んぼ。煮炊き、片づけ、洗いもの。できることを考えるうちに、楽しくなってきた。
私は、私が思っているほど、弱くないのかもしれない。強くはないけど、たくましい?
「ツウ、ごらん。外だよ。」
目がチカチカする。
「目が慣れるまで、ここにいよう。なに、すぐさ。」
しばらくすると、慣れてきた。
「ツウ、縄を解くね。」
縄を袋に入れてから、言った。
「鷹山の麓に、狩り人の小屋がある。ここから、そんなに遠くないよ。」
今からだと、夜更けになる。でも、山だ。谷の底にいるタツは、すぐには来ない。もし来ても、追い返せる。でも、他の狩り人に会えるなら、会ったほうがいい。タツに会ったことや、言われたことを伝えよう。