6-13 そんな親なら、捨てちまえ!
「守り長。裁きがどうなろうと、良村で育てます。たとえ親が何を言おうと、返しません。」
うっすらだが、首を締めた跡が残っていた。あんなに小さな子の、折れそうなくらい細い首を。許せん!
生みの親か、育ての親か。そんなコト、どうでも。それより、何なんだ。譬え何かしたとしても、首なんて締めるか? もし、北山に戻せば・・・・・・。考えたくもない。
「その気持ちは。しかし、もし。」
「もし?」
「親が考えを改めて、育てたいと言えば。」
「ねぇな。」
「ノリ。」
「言い方が悪かった。謝ります、守り長。聞いてください。」
「何かな。」
「女ってのは、命がけで子を産みます。その子は、親のモノではありません。子の命は、子のものです。」
「その通り。私も同じ考えだ。」
「子じゃなくても、首を締めれば死にます。見ていませんが、痣だらけ。違いますか?」
「確かに。いろいろな色の痣が、あちこち。」
カイが言い難そうに。聞いて直ぐ、ノリが叫ぶ。
「産んでなくても、育ててりゃ親だ。子を守るどころか、傷つける。命を奪おうとする。そんな親なら、捨てちまえ!」
「・・・・・・。しかし、なぁ。」
「子は親を選べない。とはいえ、せっかく生まれて来たのに、親に殺されるなんて。殺すくらいなら、貰っても良いでしょう。」
シゲが言った。顔は穏やかだが、目は鋭く光っている。
「それは、そうだが。」
子は親元で、それが釜戸山の考え方。カイは守り長。従う他ない。
「ノリが言った事は正しい。言い方は、悪いかもしれませんがね。そんな親なら、捨てちまえ。」
ノリとシゲ。同じ言の葉なのに、全く違って聞こえた。ノリは、怒りをぶつけるようだった。シゲは、地の底から響くような・・・・・・。
長としてではなく、人として。考えるまでもない。子の首を絞めるような親、親とは呼べない。
『そんな親なら、捨てちまえ』か。確かにそうだ。子を守るのは、大人の務め。
親だから、親なら、親に。親元に戻すことが正しいとは限らない。戻せばマルは・・・・・・。
「祝へは、私が。シゲ、ノリ。マルを頼みます。」
「はい。良村で守り、育てます。」
「マル。良村へ帰るぞ。」
ノリコにしがみついていたマル。嬉しそうな顔をして、バッとノリに抱きついた。
「ヨシヨシ。」
頭を撫でられ、ニッコリ。そして、グゥゥゥゥ。
「団子、食べるか?」
「いきなり団子は。粥だ、粥。作ってもらおう。」
「それも、そうだな。」
ほとんど何も食べられず、出で湯で溶いたソバ粉を少し、飲んだくらい。いくら気持ちが上向きになっても、そんな子がモリモリ、食べられるワケがない。
胃が、受け付けません。