6-12 来てくれた
「ワン、ワワン。」 マル、キタヨ。
小さくなって、膝を抱えていたマル。気だるそうに顔を上げると、パッと駆け出した。
「マル、泣いてたのか。ヨシヨシ、迎えに来たよ。」
ノリにしがみつき、ウンウンと頷いている。
「守り長。マルは、ずっと?」
「そうなんだ。食べ物も、合わなかったようでね。」
「なぁ、シゲ。マルを連れて帰ろう。」
パアッと明るい顔になり、ニッコリ。
「いや、待ってくれ。まだ、調べが。」
ズゥゥンと暗い顔になった。
「守り長。その調べ、いつまで。」
「そうだなぁ。まだまだ、かかるだろう。」
マルの目が潤みだす。
「では調べが終わるまで、良村で預かります。」
「えっ、いやぁ・・・・・・。」
「ノリの話では、良村で作った団子を、ペロリと平らげたとか。」
「・・・・・・。二人とも、離れの家へ。」
「はい。」
「んっ、マル。」
ノリから離れようとしない。
「マル。ノリコと、待っていてくれ。」
コクンと頷き、見つめる。
「戻ってくるよ。」
シゲに優しく撫でられ、ニッコリ笑って頷いた。
シゲコは良村で留守番中。シゲが犬を飼っているのか、いないのか。マルは知らない。
ノリコを撫でて、キュッと抱きしめる。マルは嬉しかった。迎えに来てくれた。きっと、きっと、ここから連れ出してくれる。
良村がどんな村なのか、知らない。けどノリさんがいる、ノリコもいる。シゲさんって人、優しそうだった。
お話、早く終わると良いな。早く終わらないかなぁ。
釜戸山の社は、釜戸社だけ。次から次へ、罪を犯した人が送られてくる。
裁きのことなら、釜戸山。話し合いで済むことなら、乱雲山。人では決められないことなら、霧雲山。そういう決まりである。
裁きの中でも子を守るためのものは、守り長が話を聞き、見極める。それから祝と話し合い、子の扱いが決まる。
マルの裁き。調べれば調べるほど、質が悪い。北山だけではなく、東山も調べることに決まった。どう考えても、時がかかる。
マルは食べない、汁物も受け付けない。このままでは弱りに弱り、死んでしまう。せっかく助けられたのに、ここまで来たのに。救えたはずの命を救えない、助かるはずだった命を、助けられない。
このまま待たせるか、裁きまで預けるか。釜戸山か、良山か。守り人の村か、良村か。良く、良く、考えた。そして決めた。
「調べは進んでいる。しかし、時がかかる。」
「何か障りがある、という事ですね。」
ノリのカンは当たる。
「マルは他の村から逃げ込んだ娘と、北山の祝人との間に生まれた子。という話なんだが、違うようだ。」
「そういう事ですか。」
「かかる。なんてモンじゃ、ねえな。」
「ノリ。」
「すいません。気をつけます。」