6-11 早く、迎えに来て
「守り長。マルは、人見知りする子です。あの通り、犬が好きなようで。」
「・・・・・・好き、なのか?」
ジィィィィィィ・・・・・・。
「クッ。」 エッ。
ジィィィィィィ・・・・・・。
「ワフッ。」 ナンダイ。
犬の目を見つめては、シュンとする。片っ端から当たり、とうとう膝を抱えた。
「マル。お腹が空いたろう、おいで。」
コクンと頷き、ついてきた。おや、もう良いのかいって、ん? 袋から出した干し肉を、ポロポロ涙を流しながら、モグモグ。そうか。釜戸山の食べ物が、口に合わなかったか。
マルは竹で作られた筒をギュッと抱きしめ、泣きながら眠った。朝餉も、あまり食べない。このままでは倒れてしまう。
谷河の狩り人、シバが言っていた。良村のノリから貰った団子を、美味しそうに食べていたと。食が細いわけでは、なさそうだが・・・・・・。守り長カイ、大いに悩む。
マルは思い出す。ノリが言っていた、釜戸山の食べ物は美味しいと。確かに、美味しそう。なのに、味がしない。早く迎えに来て。
「どうしたものか。」
ついに何も、口にしなくなった。食べなくても、飲んでくれれば。
「守り長。良村へ使いを出して、ノリに来てもらいましょう。どうもマルは犬が好きというより、人よりはマシだと考えているようです。」
「そのようだな。」
「では。」
「いいや。もう少し、待とう。こちらへ向かっている。きっと、そうだ。」
「はい。」
良村は蔦山から子を五人、預かっているはず。一人増えたところで、とは言えない。
いくら多く備えているとはいえ、子が多い。まぁ一人ぐらい、何とかなるだろう。しかし『受け入れてくれ』と言われて、『はい』と、なるだろうか。
言の葉が出ない、食が細い。そんな子を受け入れてくれる村、どこだ? あるか? そんな村。
「ワン、ワワン。」 ミナ、アマエヲステロ。
「ウゥゥ、ワン。」 オレタチハ、ツヨイ。
「ワン!」 ツヨイ!
怖いよ。キラキラしている犬、いない。ギラギラしてる。何も食べたくない。お腹、すかない。汁物も、飲めないの。水なら、少し。
私、このまま死ぬのかなぁ。北山に戻されるくらいなら、ここで。
でもなぁ・・・・・・。滝の上から飛び降りたのに、生きてるし。死ねないの? 私、死ねない?
ノリさん、覚えてる? 初めて会った時、言ったよね。生きていれば、何とかなるって。
でも、ね。疲れちゃった・・・・・・。