6-10 不安と希望
話を聞く限り、釜戸山では難しいだろう。日吉は良い山だが、何も話せないんじゃなぁ。
言の葉が出なくなった子は、生きにくい。話せない分、気を使う。オドオドしすぎて、壊れる。
他で暮らすより、良村の方が良い。良村の子は皆、分かっている。しかし、蔦山の子は・・・・・・。
真っすぐで、良い子だ。親に守られて、真っ白。そういう子は、知らない。
何も悪いことをしていないのに、痛めつけられる。笑いながら、傷つけてくる。逃げたくても、逃げられない。止めたくても、涙が流れる。
ほんの小さなことでも、気になる。どんなことでも、気にする。
助かるために、陥れる。守るために、傷つける。他の誰かを身代わりにしなければ、生き残れない。
あるんだよ。そういう、歪んだ場が。あるんだよ。そういう、狂った場が。
そんな所で生きた子が、どんなか。恵まれた子たちには、わからない。同じ苦しみ、痛みを知らなければ、決して・・・・・・。
「その子。マルを、良村に迎えようと思う。みんな、どうだい?」
「なぁ、シゲ。その子、いくつだい?」
「いくつだろう。知ってるかい、ノリ。」
「知らない。」
「ねぇ、兄さん。確かに女は少ないけど、何とかなると思うの。」
「良いと思うよ。私が預かるってことで、さ。」
「待て、タケ。」
「なにさ、ノリ。」
「マルは、大人しいと思う。コノに任せよう。」
「私は良いけど、まずは。」
「そうだな。みんな、マルを受け入れるってことで、良いか?」
「いいよ。」
話し合い、マルを受け入れることに。決まったからには、早く迎えに行こう。ノリとノリコ。オレも行くか、長だし。
細かいことは、コノとコタに任せる。あの兄妹なら、上手く扱うだろう。
そういえば、蔦山のツネさん。産み月に入ったって、アサさん。ハナさんも言ってたな。
馬守の村から、代わる代わる来てくれている。心強い。良村の子には、コノが話してくれる。蔦山の子には、黙っておこう。気づいた時に、言えば良い。
「シゲ。そろそろ、行こう。」
「そうだな。」
「ワン。」 オデカケ。
「行ってくるよ、シゲコ。」
「クゥン?」 ルスバン?
どこ行くの? 連れてってくれないの?
「村を頼む。皆と、しっかり守っておくれ。」
「ワン!」 ハイ!
任せて、シゲさん。早く帰ってきてネ。