6-8 本当は、ね
山裾の地から、逃げ出した人を助ける。それが、谷河の狩り人。祝辺の守の仰せに従い、霧雲山から山裾の地へ。ぐるっと回って、戻る。
助けた人を、釜戸社へ連れて行くか。どこかに託すか。霧雲山へ、連れて行くのか。その時、決める。
マルは、何も話そうとしなかった。何を聞いても、答えない。小さく震えて、唇をギュッとしていた。
犬が好きなのか、チビから離れようとしない。
「なぁシバ。この子、どうする?」
谷河の狩り人、ホウ。鷲のカンに、肉を与えながら言う。
「そうだな。話せないんじゃぁ、な。」
チビ、というより、犬が好きなのか? 二コリともせず、撫でている。
「この近くなら、北山。小出なら、森の中だろうし。」
ホウが呟くように言った。カンは動かなかったが、チビがビクッとした。この子、逃げて来たのか。
「釜戸社へ託そう。」
「話せないなら、そうだな。」
子が、チビから離れようとしない。こりゃ、どうにも。ということで、祝辺へはホウが。シバは子を連れ、釜戸社へ。
釜戸社には、裁きを待つ人が多くいる。この子の調べに、時をかけられないだろう。話せない子を、受け入れてくれる村は・・・・・・。いくら考えても、思い浮かばない。
釜戸社へ託すと決めたものの、どうしたものかと考えていた時、ノリに会った。詳しく話せないが、釜戸社へ託すことは、伝えても良い。
「そうか、それは良い。」
マルがノリの衣を、ギュッと掴んだ。
「嫌なのか?」
コクンと頷く。
「そうか。良い山だぞ、出で湯がある。」
ギュッと口を閉じ、ノリを見つめている。
そんなに嫌なら、いっそ。いや待て。犬じゃないんだ。オレだけでは、決められない。良山は豊かだ。でも、村が出来たばかり。田や畑だって、どうなることか。
犬なら、己が食らう肉は、己で狩れる。でも、人の子はなぁ。ましてや、マルは女の子。
タケも女だが、狩り人の子。てっきり男だと。オレだけじゃない、他にも。何も言われなきゃ、そう思うさ。
マルは、タケとは違う。森を駆け回る、そんなじゃ無い。・・・・・・と、思う。
「とりあえず、釜戸山へ行け。オレは村に戻って、聞くよ。もし良いって言われたら、迎えに行く。まぁ、どっちでも会いに行くさ。なぁ、ノリコ。」
「ワン。」 ハイ。
マルの頬をペロッと舐めた。
犬が好きなのか、人が嫌いなのか。人が、大人が、怖いんだろう。
首に、締められた跡がある。あれは大人の手だ。薄く残ったってことは、女。チビの父さんから離れるように、チビを挟んでた。男からも、何か・・・・・・。
腕に痣。歩き方もオカシイ。膝、腿、尻。服に隠れるトコを、蹴られたか、踏まれたか。あちこち、痣だらけなんだろう。
かわいそうに。こんなに小さい、しかも女の子。言の葉が出ないってことは、誰か殺されたか。目の前で。