6-7 あのぉ
「ヨォ、チビ。変わりないか?」
「ワン。」 ハイ。
「ヨォシ。イイコ、イイコ。えぇっと、チビの父さん。干し肉、やっても良いか。」
「・・・・・・あぁ、良いよ。」
霧雲山、谷河の狩り人シバ。大いに戸惑う。確かにチビの飼い主だが、チビの父さんなんて、初めて言われた。
確か良村の、人より犬が好きな。名を、なんてったかなぁ。
って、オイオイ。気にならないのか? 子連れだぞ、子連れ。チビを覚えているということは、オレが谷河の狩り人だって、知ってるよな。
「さぁ、お食べ。ヨシヨシ。ノリコも、お食べ。」
ノリコ・・・・・・。あっ、ノリだ。良村のノリ。良かった、思い出せて。なんだかスッキリしたよ。
と、とりあえず、何か話そう。んんん? グゥゥ。って、この子。
「確か、北山の・・・・・・。蛇の抜け殻の子だ!どうした、迷ったのか?」
ええええええ?
「この子を、知っているのか?」
思わず、早口になる。
「お腹が空いたのか。さあ、お食べ。」
団子を貰い、ノリに撫でられ、嬉しそうにしている。
「あ、あのぉ。」
「ん? あぁ、この子な。ずっと昔、岩割に子を戻しに行った帰り、見つけた。確か・・・・・・。」
「思い出してくれ。口がきけないんだ。」
「何があった。」
「わからない。牙の滝の、岩の上で倒れていた。」
山裾の地を回り、霧雲山へ戻る。乱れ川から近かったこともあり、昼餉に焼き魚はどうだい、という話になった。
川へ下りる、細い獣道。先を歩いていたチビが駆け出した。人が倒れている、そんな吠え方だった。
「そうか、名か。ノリコ、覚えてるかい?」
「ワンッ。」 ハイッ。
前足をタンッとした。
「オッ、そうだ。マルだ。」
子がニコッと、笑った。
「えっと。マル、なのか?」
コクンと頷いた。
ま、まぁ、わかって良かった。かなりの犬好きともなれば、分かるんだろう。そういうことに、しておこう。
「なぁ、ノリ。」
「何だい?」
「マルは北山の、誰の子か分かるか。」
「さぁ、分からない。長に渡した。」
「そうか。」
「どうした、マル。怖いのか。」
ウン、ウンと頷いた。
「チビの父さん。マルを、どうする気だい。」
「釜戸山へ連れて行く。」