6-6 厳しい人ほど、優しいのだよ
「エイさま。」
「次はない。」
「はい。」
歪んでいると思った。タツといい、カツといい。早稲は、早稲の闇は、とても深い。中には良い人もいる。しかし、歪みきった人が、まだ残っていたとは。
乱雲山から、早稲へ戻ったセイ。幸せとはいえない、そんな暮らしをしているそうだ。カツとは望んでそうなった訳ではなく、放り込まれたとか。
攫われたのではないので、連れ戻さなかった。自ら早稲に戻ると決め、戻らないと言い切ったのに、『乱雲山に戻せ』と騒いだそうだ。
「エイ。そう、気に病むな。」
「ポコさま。」
ウルウルしながら、耐えている。
「どうした。」
ポコにも娘がいた。苦しむ子を、放ってはおけない。
「学ぼうと思えば、学べます。なのに、なぜ。私には、わかりません。」
「エイには父が、ナガがいる。優しく守られ、慈しまれ。着る物、食べる物、住む家もある。サカもササも、そばにいる。とても恵まれている、そうだな。」
「はい。とっても幸せです。」
「慈しまれ育った子は、慈しむことが出来る。痛みを知る子は、傷つけない。しかし、そうでなければ? 親を失い、頼る人も、叱ってくれる人も、助けてくれる人も無く、歪んでしまったら。」
「・・・・・・闇に、飲まれてしまう。」
エイが考えるより、ずっと深い闇に。
「闇に飲まれた人は、狂う。歪む。学ぼうとしなくなるのだ。」
「ポコさま。私・・・・・・闇を照らせるような、そんな祝になりたい。なのに・・・・・・。」
スッと、涙が頬を伝う。
「厳しい人ほど、優しいのだよ。」
「そう、なのですか?」
「そうだ。」
ニッコリ笑って、ポンと腹鼓。
「エイは、良い祝だ。」
「もっと、もっと良い祝になります。」
ニコッ。
助け出された人たちは皆、家に帰った。それぞれの親や長、狩頭と共に。
釜戸山の、灰が降る地に暮らす人は、残らず助けた。しかし、他の地の人たちは・・・・・・。
すべての人を助け出せたわけではない。使いを出すのが、精一杯。いくら祝でも、灰が届かない地の人まで、助けられなかった。
エイは思う。争いのない、穏やかな暮らしを守りたいと。そして願う。すべての人が、幸せに暮らせるようにと。