6-3 恨み、晴らします
早稲の人を見た。そんな話を聞いてから、見回りをはじめた。必ず二人で。犬を一匹、連れて行く。そう決めた。
今日の見回りは、シゲとシン、シゲコ。二人と一匹。
クンクン、クンクン。
「ウゥゥゥゥ、ウワン。」 イヤガッタ、チカイ。
「見つけたか。」
「シゲ、あそこ。ほらっ。」
カツ。熊か何かの、皮袋を担いでいる。大きさからして、子か?
「オイ、人攫い。」
「アァ? これは、獣だ。人じゃない。」
「聞こえてるなら、頭と足を動かせ。暴れろ!」
「ンゥゥ!」
モゴモゴ、モゴモゴ。
「人じゃないか。今すぐ、放せ。」
「ウゥゥゥゥゥゥ、ワン。」 サッサトハナセ、カツ。
どうせ悪い事だろう。タツと同じで、悪いことしか、しないからな。オマエ!
「ハァ? なにっ、ウワッアァァァ。」
脹脛をガブッ。積もり積もった、恨み辛み。イヌ、改めシゲコ。晴らします!
その隙にシゲ。カツをササっと、縛り上げた。
「シン!」
「わかった。」
シンが子を助けている間、カツの口に、布を咬ませる。
「ワン、ワワン。」 ネエ、ムコウ。
遠くから、少しだけどコイツの臭いがする。きっと、他にも子がいるんだ。あっちに捕まえて、隠してる。シゲさん。オレのカン、当たるよ。
「向こうに、何かあるのか。」
「ワン。」 イルヨ。
「シゲ、捕りモノかい?」
熊実でシロを連れ、狩りをしていたタケ。
「ああ。手伝ってくれ、頼む。」
「良いよ。ん、カツ! 良く噛んだ、シゲコ。」
「ワンッ。」 ハイッ。
タケとカツは、犬猿の仲。
「タケ。向こうに誰かいる。そうだな、シゲコ。」
「ワン。」 ハイ。
「シロ。シンと、ここで待て。しっかり守るんだよ。」
「ワン。」 マカセテ。
クンクン、クンクン。クク、ククン。クン!
「ワン、ワワン。」 シゲサン、ミツケタ。
タッと、走り出したシゲコ。隠すように建てられた、掘っ立て小屋。その前で立ち止まり、お座り。
「ヨシ、良く見つけた。」
撫でてから、中へ。タケが続く。シゲコは何も言われなくても、見張る。
「助けに来た。怯えなくて良い。」
中にいたのは、五人。一人づつ抱え、外へ。
「縄を切る、良いな。」
皆、ウンウンと頷いた。
革袋から出し、両の手足を縛っていた縄と、口に噛まされていた布を解いた。
プハァと息をして、シンを見つめる。子が落ち着くのを待って、問いかけた。
「悪い人は、この通り。で、どこの子だい?」
「知らない人に、言っちゃいけないって。」
「そうか。狩り人の中で、いちばん強いのは?」
「ゴロさん。」
「川田の子か。」