6-2 凄腕商人、シン
「そうそう。なんせ、良山のブドウの酒。味が良いって、噂で。はじめは、大平の長。そりゃぁもう、惚れこんで。青野へ行ってみなってさ。そしたら何と、山里の長に繋がって。ほら、この通り。」
シン、ホクホク顔。
森川から鮎川に出て、ずっと東へ。端川、熊川を通り過ぎ、大山川に入る。奥にある大山の、頂にあるのが、大平の村。
ゆったりとして、コセコセしない。優しくて、気持ちの良い人たちが暮らしている。
木下は三鶴に攻められ、滅んだ。しかし人々は諦めず、村を立て直す。伯父は長に。従弟のミキは、狩り人になっていた。
父の墓参りをするため、木下の村へ。許しを得て、隣に母の骨を葬った。その時、引き合わせて貰ったのが、稲田の長と、大平の狩頭。
大平には酒好きが多いと、笑いながら話してくれた。
「こりゃまた、大きなタケノコだな。それに、この米。プクッとしてる。」
カズ、ビックリ。
「えっ、これ。なぁ、種籾は。」
コタも、ビックリ。そして、確かめる。
「あるぜぇ。」
シン、ドヤ顔。商いの才に長けている!
「凄いな。」
「そうだろう? って、タケ。それ。」
「熊の子。」
え、なに? という顔だ。さらに続ける。
「親の方は、ほら。」
ムロが担いで来た。
「どうした。何か、あったか?」
タケもムロも、熊狩りが上手い。そんな二人に育てられた犬も、また。
「クゥゥン?」 ドウシタノ?
「クゥ、ワン。」 エエト、タダイマ。
シロ、クロ。飼い主に似て、逞しい。
シンの目が輝いた。春の熊は、冬の熊の次に、美味しい。実は、青野の長。子熊の肉が大好き。
青野は争いを嫌い、何でも話し合いで決める大国。漆の器や、柔らかい織物など。良村では作れない、暮らしに欠かせない品を、多く作る。
低い山が多く、地は平たい。狩り人はいるが、狩るのは狐や狸など。連なっている山まで行けば、熊に出くわすことも。そういう時は隠れるか、木になりきって、遣り過ごす。
熊を狩れるくらい強ければ、迷わない。逃げたり、隠れたり、遣り過ごしたりしない。
獣だって死にたくない。命懸けで向かってくる。あの手で、頭を叩かれれば。あの爪で、首を掻かれれば。・・・・・・終わりだ。
兎もシシも、獣の肉は美味しい。中でも、熊の肉は甘くて、味が良い。菜や芋などと煮込めば、それはもう。少しの肉でも、旨味が強い。だから熊肉は、とても好まれる。
熊肉を食べると、体がポカポカして、お肌がプリプリになる。熊の掌を食べると、更にプリップリに。という訳で、とても喜ばれる。
好きな人のためなら、張り切れちゃう。それが男というイキモノ。
翌朝、シンは青野の国へ。それはそれは良い取り引きが出来たそうな。