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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
乱雲山編
163/1570

5-90 頼みます


「終わった、な。」


「少しは、考えを改めてくれれば。」


「そうなるように、祈ろう。」


山守の長に続き、守り長と陽守やもりの長が言った。




「シゲ。少し、いいか。」


蔦山の長が、呼び止めた。


「何だい。」


「その、娘のことなんだが。」


「ツネさん、だったか。センから聞いてるよ。」


「よろしく、頼みます。」



風見かぜみが、魂迎湖たまむかえのみずうみの辺りを、うろついている。初めてのお産だ。蔦山の守りは固いが、もし・・・・・・。



嬰児みどりご幼子おさなごは、親といた方が良い。子は、少し。そうだな。五人なら、受け入れられる。」


「それは有難い。」



出来ることなら親元で。しかし、風見がどういう国なのか知った今、迷っていられない。


良村よいむらは強い。戦い慣れている。




罠を張り、守りを固め、戦う。山を知り尽くしていなければ、出来ない。


夏の終わりに引っ越して、冬から春まで戦った。冬の間は動けないから、戦に備える時は無かったはずだ。それでも、守り抜いた。



早稲わさの戦い方とは、少し違う。早稲は攻め戦。周りを固め、逃げ道を塞ぎ、毒を撒く。敵の力を削ぎ、弱らせてから、ドッと攻め入る。


まず、撫で切り。次に、生き残りを嬲る。その間に、奪える物を奪い尽くす。しまいに、殺す。



話を聞く限り、良村は守り戦。周りを固め、逃げ道をいくつか残し、残りを塞ぐ。罠を多く重ねて仕掛け、備え、待ち伏せる。



山裾の地の外、森に入ってすぐ。玉置、北山、東山、三国みくにむくろが。次に攻め入ったのが、飯田と武田。


積み上がった骸を踏み越え、倒れる。先にも罠が、仕掛けてあった。逃げた先にも罠、罠、罠。


良村どころか、良山よいやまにも入れなかったそうだ。攻め入った国の長たちが、コソコソと話していた。




何も、戦について学ばせたいんじゃない。ただ、“もしも”の時に備えて、託す。それだけ。


何もなければ、それで良い。他の山で暮らすなど、そう無い。学ぶことだって多い。



「早稲の他所の」人。そう呼ばれていた人は皆、歪んでいる。あの早稲から、生きて出たのだ。歪んでしまうのは、当たり前。


しかし、違う。あの人たちは、奪うことを好まない。強いられ、逃げられず、従っていた。


多くの命を、奪ってきたんだろう。そうしなければ、生き残れなかった。それが、早稲。




叶うなら、このまま。穏やかに、和やかに暮らしたい。風見よ。北を目指すのは、止めてくれないか。

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