19-22 楽しみね
タルシェ沖で行われた公開処刑の話は、とても恐ろしいものだった。けれど清和は思う。
そんな扱いを受けるような、悪い事をした生き物が悪いと。
清和は和と離れ離れになる事を、何よりも恐れている。海がコワイと言ったのは、処刑話が理由ではナイ。
海に投げ出され、波に呑まれた妖怪に己を重ねて怖くなったのだ。
「海はね、湖より大きいの。泳ぎ切れなければ疲れて、ブクブク沈んじゃう。だから泳ぐなら囲いの中。うん、収獲祭が終わったら作ろう。」
「クゥ?」 シュウカクサイ?
収獲祭は農耕儀礼の一つ。主に農作物の収獲に感謝し、翌年の豊作を祈念する。
本格的な収穫期を前に行われる祭りと、収獲が終わってから行われる祭りがある。
「そう、収獲祭。楽しみね。」
「ハイッ。」
尻尾フリフリ。
過酷な環境は成長、思考などに悪影響を及ぼす。
清和は十年間、和を信じて耐え続けた。優しく撫でられた事、抱きしめられた事。共に過ごした幸せな日日を思い出しながら。
清和は考える。和が幸せなら己も幸せ。和を悲しませるのは悪い事。和を困らせるヤツ、怒らせるヤツは敵。許さない。
アンリエヌの言の葉は難しくて、よく分らない。けれど聞いて覚える。和の言う事は正しいから。離れている間に少し、姿が違っていても気にしない。
和は和だから。
「どっどっどっ、どうなっているんだ。」
あの柱、大きくなるのか。広がるのか。
「このままでは社が、母さまの社も消えてしまう。」
土壌調査を行い、品種改良したアレコレを植える。生長を早め、収獲物を加工したら貯蔵庫に入れる。
その繰り返し。
「和さま、ご覧ください。魚です。」
幼児の姿に化けた和音が燥ぐ。
右牙滝から禍津国に入った和音は、円柱の中心が冀召である事に気付いた。直ぐに中津国、人の世に戻って冀召にドボン。
そのまま湖底へ。
焦った。どんなに探しても、穴も亀裂も見当たらない。それでも探して探して、探し回った。
「上から水を引いた時、紛れ込んだのかしら。」
和音は諦めなかった。和が戻ったなら、きっとブランが傍にいる。
いつだったか、大和が言っていた。和さまが御生まれ遊ばす前から、ずっと見守っていたと。
探した。霧雲山系の麓をグルリと一周し、どんなに突っ込んでも破れない『何か』を見つけた。そして思い出す。
和が姿を消したのは、祝辺だった事を。
「日和が喜びそう。」
あぁ、なんと御優しい。
祝辺から地割崖、地涯滝。滝壺を一周して浮上。大木の枝に止まり、己を見つめるブランを発見。
直ぐに近づき、和が光の柱に閉じ込められていると訴える。
ブランは呆れながら和音に『どうなるか分らないが、小さくなって冀召の家から飛び込め』と伝えた。実行に移した結果、円柱の中へ入る事に成功。
良かったネ。
「増えると良いですね。」
「そうね。」
和に頭を撫でられ、デレェ。




