19-21 こんなモンかな
暗く、禍禍しい静けさに支配されている場所。それが禍津国。ドキドキもワクワクもしない、そんな場所。
「黄色く輝いている。」
清和が呟く。
「そうね。水車も造ったし、小麦から収獲しましょう。」
「はい、和さま。」
清和は、まだ人の姿にはナレナイ。だから精一杯、応援する。
「ふぅ。こんなモンかな。」
忍びもビックリの早さでシュシュシュと動き、小麦の収穫を終わらせた。
「鎮森の民が望めば、この地に。いいえ、その前に権利関係をハッキリさせなきゃ。」
人の世も隠の世も中津国に在るが、静森の民は人の世に留まっている。正確には山守や祝辺に囚われ、隠の世へ行けない。
そんな隠たちが禍津国に移れば、どうなってしまうのか。和にもサッパリ分からない。けれど、きっと良く無い事になるだろう。
「飛び地でも揉めるもん。」
タルシェがアンリエヌ領になって随分、経った。なのに今でもチョッカイを出す国がある。
「島でも揉めるもん。」
領海や領空を越える前に警告。従わなければ即、化け王 謹製『攻撃目標自動 追尾装置』が敵を捕捉。
情け容赦なくドッカァン。
「もう、嫌になっちゃう。」
来ました、苦情。海の主神から。
ポセイドンはクロノスとレアの子。クロノスの死後、支配領域として海を引き当てた大地・泉・地震・馬の神。
常に三叉の戟を持ち、青銅のヒズメと黄金のタテガミを持つ馬が引く戦車に乗り、海の怪物を従えて海原を走る。
「アンリエヌの民が海に、いろんな物を不法投棄したんじゃないのに。」
清和の背を撫でながら愚痴る。
和は頑張った。タルシェで暮らす、人には姿を見せない愉快な仲間たちと共に清掃活動を。そんな時、信じられない事が起こる。
悪乗りしたトリトンがパラリラパラリラ、ではなくホワホーボワホーと法螺貝を吹き鳴らしながら急接近。
均衡を崩した小舟が転覆。幼い妖怪が投げ出され、そのまま波に吞まれてしまった。
「悪気はアリマセン。ちょっと驚かせるツモリでした。そう言われて『はい、そうですか』って引き下がるワケないじゃん。殺妖未遂と傷害罪、迷惑防止条例違反で公開処刑してやったわ。」
沖で斬首後、頭部を浮標に固定。下半身を三枚に下ろし、血に釣られて集まったホホジロザメに食わせる。
両腕、胴体が投げ込まれる度、助けを求めるトリトン。半狂乱になるアンフィトリテ。
ポセイドンは妻を守ろうと、イルカに命じてアンフィトリテを遠ざけた。
たっぷり苦しめてから泣き叫ぶ頭部を、興奮したサメの群れにポイッ。最期を見届けた父は静かに海底へ。
「だから隔離したの。」
国際問題にならないように。
「海、コワイです。」
クゥゥン。
「海も川も湖も、穏やかに見えても引き込まれるわ。泳ぐのが上手くても気を付けてネ。」




