5-88 殺さないで
嬰児と年寄りは、死ぬ。幼子は、育たない。生き残った子は、他の村、他の国へ逃げる。
逃がさない。まずは人を、増やさなければ。そのために出来ること・・・・・・攫う。
違う。違う。違う。攫えば、滅ぼされる。
怖い。釜戸山では、殺さない。釜戸山の中では、殺せない。だから、獣谷の仕置場で。
聞いた話だが、茅野のタツ、草谷のヒコ、日吉のサブ。三人の子と同じ痛みと苦しみが与えられた。
もし攫えば、送られる。獣谷へ。食われる、仕置場で。
今は熊の、子育ての。腹を空かせた熊たちに、貪り食われる。そ、そんな、こと・・・・・・。
「オイ!」
ハッ。
「何だ、何があった。」
キョロキョロして、長たちに問いかける。
「何って、聞いてなかったのか。」
三鶴の長だけではない。他の長も、呆れ顔。
「聞け、玉置の。もし、一人でも攫えば、捕らえる。釜戸社、祝に託す。」
・・・・・・。
「聞こえてるか?」
「・・・・・・増やす。」
「何だって。」
「・・・・・・シゲ、だったな。出来たばかりで、困ってるだろう。子を、寄こせ。」
「断る。」
「なら、攫う。」
早稲から、“他所の人”と蔑まれ、虐げられてきた。戦うことを強いられ、逃げることも出来ず、幾度も戦い、生き残った。いや、生かされたんだ。だから、守る。
良いか悪いかは別として、戦を知り尽くしている。守るために、生きている。死んだ人が守りたかった全てを、何が何でも守り抜く。それが、生かされた者の務め。
子は宝だ。その宝を守れず、死んだ親から託された。そう、思っている。良村の子は、オレたちの子。その子を、攫うだと?
ガッと衣の肩を掴み、叫ぶ。
「獣谷へ、放り込むぞ!」
あの子たちの親は皆、死んだ。オレたち九人が、親代わり。誰一人、渡さない!
「ヒッ!」
玉置の長が、分かりやすく怯えた。
「それは良い。手伝うよ、シゲ。」
「シキ、何を!」
守り長、大慌て。
「裁きを待つ人で、いっぱい。そう聞きましたよ。」
・・・・・・確かに。
「とりあえず縛るか。縄、あるかい?」
シゲもシキも、逃す気はない。
「さ、らわ、ない。誓う。こ、殺さ、ないで。」
「信じられねぇな。けど、まぁ。話し合うために集まったんだ。守り長、任せるよ。」
岩割の長であるセキは、木に登るための縄を、いつも持ち歩いている。人を縛るには、短いかもしれない。とはいえ、縄は縄。無いよりは良いだろうと、シゲに渡そうとした。
守り長に任せると聞き、引っ込める。しかし縄は、手から手へ。岩割、大平、鑪、陽守、馬守、良村。
玉置の長は、両の手を後ろに縛られ、項垂れた。