19-18 見れば判るでしょう
ジロの孫、和は鎮野を出た。人の子なのに使わしめを、隠を従えて。
人の守の守付で、とつ守が後見。祝社の離れでは暮らさず、冀召の近くに家を建てて暮らしていた。
家を建てたのはオビスでしょう。けれど、あの力。
いつだったか、ずっと前。空から光が。小柄で光の珠、深山で光の剣を持つ子が生まれた。
あの子たちと同じ。
「新しい化け王は和神。御犬は使わしめ、名は清和。」
御目から光がスゥっと消えてゆく。
「素戔嗚尊が御犬の、首から提げていた守り袋を欲しがり為さってね。閉じ込めて。」
イロイロと酷い事を。
言の葉に出来ないような事をイロイロと、どこかに閉じ込めて為さったのですか。
そうなのですね。
「隠になった御犬は認められ、和神に仕える事になったの。とても幸せそうに尾を振っていたわ。」
そうでしょう、そうでしょう。
「『人の世へ戻りましょう』と。御犬も『はい』と。なのに、はぁ。」
当たって欲しくナイ事ほど、当たってしまうんですね。でも、外れてほしい。
「和山の辺りに、その下に『家を』と。」
はぁ?
「隠の世も中津国。でも、幾ら何でも和山は無いわ。」
中津国には人の世と隠の世が在り、和山は隠の世に聳える霊峰。
隠の世の嶺、その頂を守るのが和山。御坐すは、はじまりの隠神で在らせられる大蛇神。
隠の世、霧雲山には狗神。乱雲山には鼠神、天霧山には烏神が御坐す。
三柱の御力により清められ、大蛇神を通して、やまと隠の世は守られている。
「和神は御存じなのね。だから『人の世、祝辺。冀召の真下に社を建てましょう』と。『いろいろ手を加えますが、宜しいか』と。」
ホッ。
「・・・・・・なのに。」
ウルッ。
「『はい、どうぞ。お好きなように』と。」
素戔嗚尊が。
終わった。禍津国、終わった。
和神は天津国より授けられた光の力と、強い祝の力を幾つも御持ちだ。加えて化け王。そう、化け王。
祝の力とは違う、けれど恐ろしく強い御力を揮われる。それが化け王。
『お好きなように』なんて言ったら、どんな事になるのか。あぁ、考えただけで震えが止まらない。
そうだ、あの柱。ははっ。今は霧雲山がスッポリ入る大きさだけど、そのうち。
「あの柱、広がるでしょうね。」
呟くように仰る、伊弉冉尊。
「はい。」
としか言えない投。
「初めは霧雲山、それから霧雲山の統べる地。」
悲愴な面持ちを為さる伊弉冉尊。不安げな面持ちをする投。
投は中津国、人の世で暮らす隠。けれど伊弉冉尊は伊弉冉社から、禍津国から御出で遊ばない。
何れ中の東国と同じ大きさになるだろう。けれど叶うなら、霧雲山の統べる地が収まる広さに止めてほしい。
そう願わずにはイラレナイ。
ドタドタドタドタ、ドンッ。
「母さま、御覧ください。あの光、何ですか。」
イロイロやからし、高天原から追放された素戔嗚尊。ドドンと登場。
「『何ですか』って、見れば判るでしょう。」




