19-13 一から育て直しましょう
和さま、和さま。そんなに御怒り遊ばさないで。清和は和さまの、花が咲いたように笑う御顔が好きです。
「クゥゥン。」 ナギサマ、ワラッテ。
血塗れになった清和が、とても悲しそうに訴える。
「清和、ごめんね。出してあげる。」
掌を下に向け、スッと横に動かした。と同時に柵の一部が抜け、入口を作る。
「清めましょうね。」
水の才で洗い、火の才で乾かし、風の才で毛並みを整えた。これら全て特質系。最後に清めの力を揮い、浄化完了。
「さぁ、入って。」
鏡の中から清和の骸を取り出し、微笑む。
「入る?」
キョトン。
「今のままでは隠になる事も、生まれ変わる事も出来ないわ。だから一度、骸に戻って隠になりましょうね。」
「ハイ、和さま。」
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何の疑いも持たず、己の骸に戻った清和。空っぽだった骸に、その魂が戻った事で光輝く。
「痛くない! 体が軽い。傷も無い。和さま、ありがとう。迎えに来てくれて、祓い清めてくれて。ウルッ。ありがとう御座います。」
クゥゥン、すりすり。
感動の再会を前に『良かったね』と涙する亡者たち。中には膝をつき、祈りを捧げる亡者も。
「素戔嗚尊。」
グッチャグチャになった塊を前に呆然と為さる一柱の神。
火産霊神産んで死んだ私を追って、禍津国まで来てくださった。嬉しかったの。
直ぐには戻れなくて、『決して見ないでくださいと』お願いしたわ。なのに、なのに、なのにぃぃ。
追いかけたわよ。『よくも見たな』と、『裏切ったな』と思いながら黄泉平坂の坂本まで。
あの男! 千引の岩を引き塞えて言ったわ。別れの言の葉を。
悲しかった。怒りで周りが見えなくなった。でも落ち着いて返したの。
『愛しい夫である、あなた。ナゼそのように酷い事を仰るの。それが真であるなら私はこの先、あなたの国に住まう人を日に千づつ、縊り殺します』と。
で、帰ってきた言の葉。
『愛しい妻である伊弉冉尊よ。あなたがソレをするなら、宜しい。私はこちらの国で日に千五百の人の子を産ませるため、千五百の産屋を建てましょう』と。
「・・・・・・ハァァァ。」
阿波岐原の禊で身につけて御出でになった物を全て、御捨てに。ケガラワシイと御捨てに。
海水に御体を沈められ、大きく御身を振られ、汚れを落とされた。禊は続き、多くの神が生み出された。
禊の終わりに両の目と、鼻を御洗いに。
そうして現れ出たのが天照大御神、月読尊、素戔嗚尊の貴い三柱。
「この子に罪は無い。」
禊で生まれた子。いつまで経っても幼いまま、体だけが大きくなった私たちの子。
「一から育て直しましょう。」
それで変わるとは思えないのが、辛いわ。




