5-82 やめちまえ
急に問われ、ポカンとした東山の長、マサ。何か言わなければと焦るも、なかなか言の葉が出ない。助けを求めるように、シゲを見つめた。
「・・・・・・何だい、東山の。オレに言いたいことでも、あるのか?」
「良村の。早稲に、いたんだよな。」
「それが、どうした。」
「タツ、知ってるよな。」
「だから、何だ。」
「知ってるんだよな。」
「知ってる。」
「タツは、オレの甥だ。」
「らしいな。」
「知って、いたのか。なら話が早い。口添えしてくれないか。」
何を言い出すかと思えばコイツ。タツに、そっくり。器じゃねえよ、アンタ。よくもまぁ、長になれたもんだ。
おっと、呆れちまった。黙ってたんじゃ、思い違いさせちまう。
「タツの骨、東山に埋めたのかい。」
「いいや。獣谷に、捨てられたんじゃないのか。」
「早稲にある。社の司が受け取ったはずだ。」
守り長を見ると、頷いた。
「マサ、だったか? 昔、タツが言ってたよ。いつか東山に帰るんだって。叶えてやれよ、叔父だろう?」
何かあっちゃぁ、言ってた。ジッチャ、バッチャ、オンジってな。あの長やジンに唆されたんだろう。愚かなヤツだった。でもさ、アンタの甥だぜ。
村外れにある、みんなの墓。いっぱいなんだ。早稲の社の司、弱いけど良いヤツだ。出来る限り、近くに埋めたと思う。
「なぜ黙る。迎えに行ってやれ。タツの父さん、アンタの兄が言ってた。東山には戻りたくないって。でもタツは、戻りたがってた。」
「・・・・・・んで。」
「何だい。」
「何でオレが! マツは直ぐ戻った。助けてくれって、捨てられたって。タツはな、兄ジャと姉ジャを独り占めしたくて、弟を捨てたんだ。兄のくせに!」
「甥っ子の話は、ここまでにしよう。長引きそうだ。でだ。良村は玉置、北山、東山。飯田、武田も助ける気はない。攻められたからな。それに東山は、困ってないだろう?」
「困ってる。だから、助けてくれ。」
「豊田に攻められはしたが、守り切ったんだよな。玉置と北山に食べ物、譲ったんだろう? それで、霧雲山に攻めたんだよな。」
・・・・・・。
「地が震えてから、どんだけ攻めた。どんだけ死なせた。逃げられると思うな!」
「あの子は、十二になったばかりだ。まだ幼い。女ばかりで、やっと生まれた男の子だ。死なせられない。次の長になれるのは、他には!」
「マツ、だったか。甥なら継げるだろう。そもそも、十二は子じゃない。幼いから何だ。そんなんで村を、国を守れるのか?」
「オレがいる。オレが長として、支える。」
「戦狂いにゃ務まらねえよ。今すぐ、やめちまえ。」
逆らってはいけないと、やっと解ったか。急に静かになった。
「為来りを守れないような村や国は、助けられない。」