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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
乱雲山編
153/1571

5-80 言の重み


シバは思った。舟の中でシゲが言った、『のほほんとほうけて暴れる、幼子のようだ』というたとえは正しい。何だ、此奴等こやつら。助けを求めるなら、少しは控えろよ。



霧雲山に攻め入った、いや攻め入ろうとした玉置、北山、東山。三つの国の長たち。霧雲山に奪われたようなものだから、働き手をよこせ、とは。しかも踏ん反り返って言うことか? 山守の長でなくても、呆れる。


戦を始めるなら、まず使いを立て、言の葉で伝える。それが為来しきたり。何の前触れもなく、いきなり攻めるなど有り得ない。



祝辺の守の許しなく山に入るということは、自ら命を差し出すのと同じ。霧雲山とは、そういう山だ。


為来り、決まりも破り、求めるなど。愚かにも程がある。助ける気になど、なれない。






舟の中で聞かされた話・・・・・・。辛く悲しい、息が苦しくなるものだった。



村に残した、守りたい人のため。奪いたくない命を奪い、殺される。残された人は皆、飢えや病に苦しむ。戦場いくさばへ駆り出された、守りたい人を思いながら、死ぬ。早稲わさと同じことが、この地でも。


戦で奪われるのは、命。家、食べ物も奪われる。死なずに生き残った人たちに、何が出来る? そもそも戦なんて、冬にするもんじゃない。なのに、戦が始まった。



広くて平らな地なら、まだマシ。離れた地へ逃げれば良い。でも、ここは山の奥。霧雲山から見れば山裾の地だろうが、平らな地なんて、あっても少ないだろう。


薪を得るために山に入って、木を切る。それを運んでぐ、使えないよな。湿って。



冬に死人が出ても、一人か二人。それなら、力を合わせて葬れる。戦なら? むくろを焼くには、薪が足りない。雪が深くて、埋められない。


となれば、だ。病が広がる。バタバタと倒れる。骨が浮くほど、痩せ細る。苦しそうな顔をして、死ぬ。



残された者は、辛いなんてモンじゃない。ひどいのは、子さ。冷たくなった母の乳に吸いつき、消えそうな声で泣く嬰児みどりご。飢えと病で、動かなくなった幼子おさなご



子に死なれた母。命がけで産んだ子さ。小さくて、愛おしい。そんな我が子に、乳をやれないんだ。


腹が減って、泣くだろう? 口に含ませても、乳が出ない。泣き声も小さくなって、しまいには・・・・・・。


死んだ嬰児を抱きしめてさ、乳を飲ませてくれないか、助けてくれないかって。



男たちだって、好きこのんで攻めたんじゃない。けどな、オレは長だ。村を守るために、奪った。そのままに出来ないから、葬ったよ。


残りたかっただろうに、逆らえず。守りたい人を守るため、戦場に。・・・・・・骸の顔は皆、苦しそうだった。頬がけて、カサカサで。


愚かな長の、愚かな考えが、多くの命を奪う。早稲と同じ過ちを何度、繰り返せば学ぶんだろうな。





『決して、戦を起こしてはならぬ。助け合い、話し合って、生きよ』祝辺の守のおおせだ。背く気など無い。だが、戦を仕掛けたヤツは捨てる。


残された人たち全て、救えるなら救いたい。けど難しいだろう。それでも、さ。出来る限りのことは、しようと思うんだ。

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