5-79 ルールは守るためにある
酷い事になっている国、玉置と北山。豊田、川北、三鶴、東山は、何とかなるだろう。
平良の烏が、それぞれの社へ飛び、守の言の葉を伝える。祝たちは畏み、平伏す。
戦など望まない。やっと春が訪れ、作付け出来る。釣り、狩り、野草採り。育てた食べ物を得ることも。
守り切った村にも、伝えられた。川田、馬守、岩割、蔦山、良村など。守の言の葉が伝えられる前から、助け合っていた。
玉置も北山も、戦好き。攻められた豊田も川北も、助けようとは、しないだろう。食べ物は何とかするとして、働き手が足りない。子を攫おうと、考えるかもしれない。
それぞれの長が集まり、話し合うことになった。
「霧雲山に、奪われたようなものだ。働き手を、よこせ。」
玉置、北山、東山の長。踏ん反り返って、言う。
「何を言い出すかと思えば、愚かな。」
霧雲山。山守の村の長が、呆れながら返した。
何の前触れもなく、いきなり攻めて来たくせに。
戦好きとは、聞いていたが・・・・・・。祝辺の守の許しなく、霧雲山に入った。つまり、自ら命を差し出した、ということ。霧雲山から、外へ出す気は無い。誰一人、決して。
「戦の前触れなど、出す訳がない。」
何言ってやがる。という顔をして、玉置の長が。
「隙を狙って、出し抜けに攻める。」
見下すように、北山の長が。
「だからこそ、勝てるのだ。」
嘲笑いながら、東山の長が。
「知らせれば備え、構えるだろう。」
そんなことも分からないのか。という顔をして、川北の長が。
「勝つために、戦を仕掛ける。」
睨みつけながら、豊田の長が。
「分かったか?」
鼻で笑いながら、三鶴の長が。
「戦を仕掛けるのなら、まず使いを立て、言の葉で伝えるべきだろう。」
山守の長が、言い切った。
「何にでも、“為来り”が、ある。」
重い口を開いた、良村の長。
良村。早稲に逃げ込み、虐げられた人たちが作った、新しい村。繰り返し戦に駆り出され、生き残った強者揃い。その長である。恐ろしく強い。当たり前だが、戦の事なら、何でも知っている。
いつもなら捻じ伏せるが・・・・・・勝てない。良村の長、シゲ。集まった長の中で、最も若い。なのに怖くて、恐ろしくて、動けない。逆らってはいけないと、心と体が叫んでいる。
霧雲山から、山守の村の長が。ということは、どうにもならなくまるまで、祝辺の守は動かない。話し合いの場は、釜戸山。話し合いで、片を付けるしか無い。
勢いの良かった、六人の長たち。玉置、北山、東山。川北、豊田、三鶴。すべて、黙り込む。