17-59 しっかり聞きなさい
カヨとオビスが本気を出した。
鎮野の祝女頭から聞いた村へ向かい、呪いの種を植え付ける。シッカリ根を張ったら茎を伸ばし、花を咲かせて動かした。
己の足で山守へ。滅んだ村へ向かうように。
「フフッ。」
樹が笑う。
「ねぇ御婆。いつまで偽り続けるの?」
母は死んだ。けれど父は生きているし、兄も居る。なのに先見の力を引き継いだダケで、こんなトコロに閉じ込められている。
オカシイだろう。
ずっと考えていた。
母から娘へ引き継がれる祝の、先見の力が強い事は認める。けれど、だから何だ。どうして父に、兄に会えないのだろうと。
「知っているのよ。」
「な、にを。」
「祝辺の守、八。闇の力を持つ隠の守。」
ドキリ。
「鎮野の継ぐ子、鎮森に送り込んだでしょう。」
鎮森は心の強さや力を厳しく試す、人を通さない森。
祝辺に辿り着けるのは一握り? いや違う、一撮みだ。
「これまで、どれだけ殺したの。」
樹の声が刺さる。
「これから、どれだけ殺すの。」
樹の目が冷たい。
「答えて。これから会うのは縛りの力を持つ、祝辺の男よね。どうやって連れ込んだの。」
社の司、禰宜、祝の目を盗んで。
嚴はユタを選んだ。鎮森に認められた継ぐ子で、木の声が聞こえる。けれど強くない。そんな男と契り、生まれたのが夕。
あの時、思った。このままではイケナイと。だから乱雲山から来たというジロと、あの男と契らせようと思ったのに。なのに?
「嫌よ。」
エッ。
「決めた。ナエの弟、單と契るわ。」
うふふ。
「兄さんはナエ、樹は單と契る。生まれるのはジロの孫。嬉しいでしょう。」
單も璨も隠しているが、祝の力を持って生まれた。祝も知っている。
知っていて黙っているのは先見さまを引き取り、育てる御婆が祝辺に操られているから。
「渡さないわ。鎮野の人も村も山も全て、祝辺なんかに渡さない。」
何を見た! いや、違うだろう。
「やっと終われる。」
「いいえ、始まりよ。」
御婆の胸から棘を持つ、黒い蔦がスゥっと伸びた。それが御婆を捕らえ、繭のように包む。
「怖いよ。」
「助けて。」
「帰りたいよ。」
「お母さん。」
頭の中に響くのか、繭の中に響いているのか分からない。
分からないが聞こえる。幼子の声が、泣き叫ぶ声がガンガン流れ込んで来る。
「しっかり聞きなさい。御婆に殺された鎮野の、何も悪い事をしていない子の叫び声を。」




