17-58 いつでも
破落戸は理解した。なぜ己に落ち着きがなく、他の人とは違う考えを持っていたのかを。
カチカチカチ、ボッ。
鎮森の民が枯れ枝を集め、破落戸の回りに投げる。アッと言う間に堆く積まれ、最後に乾いた枯葉が撒かれた。
ソレに火打ち石を打つ。
「ア゛ァァッ。」
喉笛を破られ、上手く息が出来なかった。
とても苦しかったが違う。生きたまま焼かれるのは、もっと苦しい。
鎮森の民たち、カヨも同じ。山守の民を殺しても殺しても一度、抱いてしまった憎しみは消えない。
ずっと、ずっと苦しみ続けるのだろう。
人は忘れる生き物だ。なのに忘れられないのは、それだけ闇が濃く、深いから。
心の中に渦巻いたソレが清められ、瞳に光が戻る事は無い。
「あっ、あの。」
オビスに捕まり、崖の上から刑場を見ていた。いや見せられていた祝女頭が漏らした。
「臭い。」
そう言われると唇を強く噛み、耐えるしかナイ。
「言え。山守の生き残りは鎮野に、あの村にドレだけ残っている。」
鎮野を纏めているのは、人の長でもある社の司。
風を操る禰宜、心の声が聞こえる祝が鎮野の民を。守りの力を持つ祝女頭、清めの力を持つ祝人頭が鎮野の村を守っている。
守りの力を持っているのは、祝女頭ダケでは無い。祝人や祝女、継ぐ子の中にも居る。だから守りが弱まる事は無いのだが、殺されるとマズイ。
「鎮野社の、ずっと東に小さな村が。そこで暮らしているのが山守の生き残りです。知らずに契ったのも、その村に閉じ込めています。」
鎮野社は知っていた。知っていて匿ったのは、山守の民が病持ちだと知る前。
「ホウ。」
オビスの目がギラリと光る。
「ジロ。ジロさまが御暮らしなのも村外れですが、西の端。大泉や鎮森の力が届きます。」
アンリエヌでも魔物は、化け王城で暮らしている。アンリエヌの民は人の姿とは違う生き物が、化け王城で暮らしている事を知っている。
知っていて何も言わないのは化け王の臣だから。
ココがアンリエヌなら、オビスを引き取って育てる。けれど違う。この姿でも浮くのにオビスは、その姿をアレコレ言われればドウなる。
きっと酷く傷つき、引き籠る。そう考えた。
「続けろ。」
「はい。ジロさまは御姿が、他の人とは違います。なので村の真中より外れ。鎮森に近ければ、その。」
「何だ。」
「いつでも。そう、思いました。」
ジロが村外れに家を建てたのは、村の真中だとオビスが気兼ねすると思ったから。
鎮野で暮らし難くなったら大泉、大泉で暮らし難くなったら麓へ。モチロン逃げるのではナク移り住む。それダケ。
「これからもジロさまナタさま、ナエにも單にも璨にも手を出すな。あの家にも近づくな。声を掛けられたり訪ねてきたら、嫌な顔をせず付き合え。」
「ハイッ。」
『社の司も同じコトを』と思ったが、黙って頷く。




