17-57 狼だって
ジロは勿論ナタも、二人の子もシロとオビスに守られている。
ナエは大蛇神の愛し子、マル特製の守り袋を首から提げているので安全。ナタはジロが居ないと家から出ない。
單は禍を齎すモノを弾くし、璨は弱くても水を操る事が出来る。
「だから何だ。」
カヨの声が、また低くなった。
「ソレは今まで、女を見ても。」
カヨの闇がグサッと、祝女頭の胸に突き刺さる。
「女を見ても?」
伸びた根に棘が生え、心の臓に食い込んだ。
シャッシャッシャッシャッシャッ。
「どうした。」
ドクドクドクと押し出される血が、その流れが滞る。
「なっにも、起こらず。」
唇が紫に変色。とっても苦しそう。
「続けろ。」
「はい。」
シャッシャッシャッシャッシャッ。
「ヴォン。」 ホレタヨ。
狼だって穴、掘れます。ジロのためなら喜んで、ココ掘れワンワンもするヨ。
ナエを手籠めにしようと考えた破落戸を埋めるのか、その危険性を知って居ながら放置した祝女頭を埋めるのか。
決めるのは呪いの種、多鹿のカヨ。
「お待ちください。」
ナエがカヨに頭を下げた。
「祝女頭が動かなかったのは御婆さまに、とても強く言われていたからです。」
先見の力を生まれ持つ嬰児を引き取り、鎮野社の離れで育てるアレか。
「次の先見さま、継ぐ子たち。守らなければイケナイ人が多く、従うしか。」
それでも許せない。
片付けようと思えば、いつでも片付けられる。それに今、考えなければイケナイのは生き残りの事。鎮野に、ドレだけ紛れ込んでいるかだ。
「ナエ、戻りなさい。」
「はい。」
ナエが家に入るのを見届けてから、シロが掘った穴に汚染水を流し込む。それから破落戸を放り込み、まとめて山守に運んだ。
山守の村に家は無い。生き残ったのは山守社に、山守神に仕える人だけ。他は死んだ。
骸を埋めようにも、穴を掘る人が居ない。だから骸を焼くため、ボロボロだった家を使った。
「さぁて。」
カヨは呪いの種。琴を弾きながら歌ったり、大きな物を運ぶ事は出来る。けれど肉体が無い。
「頼めるかい、オビス。」
「はい。」
オビスは妖怪。山守神に捧げられた幼子の骸に闇堕ちした山守の隠が入り、生まれた妖怪。山守の民を憎み、山守の村を滅ぼしたいと思っていた。
だから手を貸す。
「ぁ・・・・・・。」
ヒュゥヒュゥと息が漏れ、思うように話せない。
「山守の民は弱い人を、攫ってきた人を生贄にした。人柱にした。生きたまま殺し、手を叩いて喜んだ。だから生きていてはイケナイ。解るね。」




