5-76 忘れないで
この度は守れた。しかし、次は。
「ブラン。」
呼んですぐ、音もなく現れた。
「はい。」
赤い目をした、白い鷲。恐ろしいほど、美しい。
「化け王の力。そなた、使えるのか。」
・・・・・・?
何を言っているのか、分からなかった。直に理解し、叫びそうになる。『なわけ、あるか』と。
人の守は考えた。
隠の守は、平良の烏に乗って、どこへでも行ける。行った先で、力を使うことも出来る。
祝辺の守に出来るのなら、化け王にも、と。
「畏れ多いこと。」
穏やかな声だが、冷たい眼差し。
「そうか。」
出来るのか、出来ないのか。問いつめようとして、止めた。ブランの赤い瞳が、燃えるように激しく、光っていたから。
ふと思い出す。ブランは、化け王の臣下。他の妖怪とは、違うのだ。
「お忘れ下さい。」
「いいえ。決して、忘れません。」
ブランが見聞きした事は全て、報告される。ブランの目は、化け王の目。ブランの耳は、化け王の耳。ブランが傷つけば・・・・・・。
「申し訳ない。」
「後、慎むよう。」
敵に回してはいけない。何をもって裏切ったとされるのか、分からない。
霧雲山も、霧雲山が統べる地も、化け王には関わり無い。従兄君との約束を守る、それだけ。
どんな約束なのか、分からない。何度聞いても、答えてくれない。
分かっているのは、収集の才があること。アンリエヌの大王を倒し、化け王が統治していること。遠く離れた地から、移ることが出来ること。
今は違うが、敵に回るかもしれない。どうするのか、化け王が決める。そのために、ブランが付けられた。
「ご用は、お済みか。」
化け王と同じ目。
「・・・・・・はい。」
守が答えると、スッと消えた。
「平良。釜戸山の灰が降る、すべての社へ。伝えておくれ。『決して、戦を起こしてはならぬ。助け合い、話し合って、生きよ』と。」