17-55 誰にも言ってイナイのに
ジロとナタにはナエの他に二人、子が居る。長男の名は單、次女の名は璨。残念ながら見える目は無いので、どんなに望んでも継ぐ子にはナレナイ。
單には悪意や敵意など、禍を齎すモノを弾く力。璨は水を操る力は弱いが、水蒸気を集めて作った珠を通せば、遠く離れた場所や未来を見通す力がある。
けれどソレを知っているのは家族、社の司である紅、先見さまダケ。
「なぁえぇチャン。お兄さんと、ぐふふ。イイコトしよう。」
ゲッ。
「妨げ、じゃなくて狩頭。弟クンも居ないよネ。」
だからナニ。
「さぁ、森の奥へ行こう。気持ちよくしてア・ゲ・ル。」
大きな目と口元は母さん。目と髪、彫の深い顔は父さん譲り。母さんはソウでも無いけど父さんは、ドコからドウみても他の人と違う。
美しいと思うよ。
でも子なのに出るトコ出て、引っ込むトコ引っ込んでいるのはドウして? 家から出ないようにしているのに、それなのにドウしてオカシイのが寄ってくるの。
「嫌よ、気持ち悪い。今すぐ目の前から消えて。」
プイッ。
「ハッ、照れんなって。」
破落戸がナエの手を掴もうとした、その時。
「ギャァッ。」
シロが森から勢いよく出てきて、破落戸の右肩に噛みついた。
「ジロの子に手を出した。だからタップリ苦しみながら、生まれた事を悔いながら死ぬ。」
少し遅れて来たオビスが、冷たい目をして言い切る。
破落戸は左手をガッと上げ、シロの目を突こうとした。けれどカパッと吻を開き、それをヒラリと回避。と同時に喉笛を食い破る。
ヒュゥ、ヒュゥと息が漏れ、破落戸が見開く。慌てて喉を押さえるがドウにもナラナイ。どんなに息を吸い込んでも、その大半が漏れ出るのだ。
苦しくて苦しくて仕方がない。
「ごろぜ。」
いっそ一思いに死にたい。心の底から、そう願った。
「言ったよね。『タップリ苦しみながら、生まれた事を悔いながら死ぬ』って。」
ナエはジロに似て美しい。
先見さまと祝人の倅、夕と手を繋いで歩いているのを見て思った。
あの真っ白な肌を赤く染めたい。何も考えられなくなるまで抜き差しして、グチャグチャにして喘がせたいと。
夕は木の声が聞こえるダケ。なのに村の中で触れようとしたら、何かにドンと弾かれた。だから夕が居ない時、村外れに建つ、この家から出る時を狙ったんだ。
「山守臭い。」
ドキッ。
「親、いや爺か婆。」
誰にも言ってイナイのに、どうして。
破落戸の祖母は山守の民。山守で生まれ育ち、十二になる前に逃げ出した。
年の離れた男に差し出される前に逃げ出さなければ、体に赤い斑が出て死んでしまう。アソコが赤く腫れて、顔が崩れて死んでしまう。
逃げて逃げて逃げて捕まり、そのまま放り込まれた離れで穢された。赤い顔をした男たちに幾度も幾度も、飲まず食わずで朝から朝まで。
気を失うと水をバシャッと掛けられ、また始まる。その繰り返し。
やっと逃げ出し、迷わず飛び込んだのが広滝。




