17-53 どうして閉じ込められなきゃイケナイの
鎮野の先見は母から娘へ、その命を懸けて引き継がれる。
生まれる前から名が決まっていて、生きられるのは二十くらい。なのに生まれて直ぐに親や兄弟と引き離され、御婆さまに育てられる。
「どうして。」
祝の力にはイロイロあって、母から娘へ受け継がれるモノは恐ろしく強い。命と引き換えにするか、娘の一人が受け継ぐ。
「知ってるんだから。」
兄さんの好きな子、ナエは先読の力を持っている。母から娘に受け継がれる、とても強い力。ナエは母さん父さん、弟、妹と暮らしている。
祝の力を持っているのはナエだけ。
ナエの父さまは姿が違う、他所の山から来たジロさま。熊を一人で狩れる、とっても強い狩り人。
赤い目をした白い犲とオビスに慕われている。
「離れで暮らさなくても、御婆さまに育てられなくても力が弱まる事は無い。消える事も無いって。」
ナエが先読の力を持っている事は社の司、禰宜と祝も知っている。知っていて何も言わない。
もし何かしたらジロさまが直ぐナタさま、ナエたちを連れて大泉に移り住む。
ナエが首から提げているのは良村の守り袋。元はナエの婆さまが大蛇神の愛し子から、良村を出る時に貰った品。
その気になれば良村へ移り住める。
「気付いているのに戻してくれない。」
御婆さまは恐れている。
次の先見さまが、齋が生まれなければ嚴も生まれない。嚴が生まれなければ樹も生まれない。
なのにココから出さないのは、選ばせる気が無いから。
十二になるまで閉じ込めて、御婆さまが選んだ誰かと契る。娘が生まれるまで幾度も幾度も、何も感じない男と。
・・・・・・そんなの嫌。
「父さん、兄さんと暮らしたいよ。」
父さんは毎朝、声を聞かせてくれる。兄さんは歌を歌ってくれる。御婆さまはイライラしたり、ブツブツ言ったりするケド気にしない。
だって分からないもの。
「母さまには父さまが居たから、耐えられたんだね。」
良いなぁ。
「このまま老いて死ねば、この力はドウなるの。」
消えるのかな。
鎮野は根の国に繋がっている。だから山守も祝辺も、山守社も祝社も鎮野には手を出せない。
社を通して話す事は出来る。けれど『同じ霧雲山に居るから』と呼び寄せたり、一人でも連れ去ればオシマイ。隠でも消される。
山守と祝辺には大泉、野比、野呂より扱いに困る。それが鎮野。
「祝、社の司、禰宜が居れば先見なんて。」
居なくても良い、よね。
「清めの力を持つ祝人頭、守りの力を持つ祝女頭も居るし。」
祝人や祝女の中には先見、先読。闇の力を持つ者も居る。
「先見さまってナニ。」
強い先見の力があっても、これから起こる事が分かるダケ。見えるダケ。それを伝えて末を、ほんの少し変えられるダケ。
「ソレはソレでスゴイ事なんだろうけど、だからナニ。」
どうして閉じ込められなきゃイケナイの。




