17-52 子の成長は早い
ジロとナタの娘で先読の継承者、ナエ誕生。
パッチリお目目と口元はナタ似。他はジロ似。
「わぁぁ。」
ユタと嚴の倅で舞と満の孫、夕が目を輝かせた。
「ちぃたぁ。」
ナエの頬を恐る恐る、そっとツンツンする。
「あっ。」
ニコッと笑われパチクリ。
夕は驚いた。嬰児に微笑まれ、全身がビビビとしたから。心拍数が上がり、顔と耳が真っ赤になる。
齢一にして新生児に一目惚れ。
ませている、というワケでは無い。
大きな目をした嬰児なら居る。けれどジロと同じ瞳の色で見つめられ、ドキリとして思ったのだ。この子と居たいと。
「しゅき。」
「キャッキャ。」
ナエも夕を好きになったのか、ご機嫌である。
ジロは思った。この子が育てば、カー王に似てくるのではナイかと。
ジロがソウなのだ。黒目黒髪で平たい顔をしていたのに、己の体に戻ったら姿が変わっていた。
ナギの花のように青い瞳、ドングリ色の髪、加えて目鼻立ちがハッキリした顔をしていたのだ。驚くのは当たり前である。
「夕、ナエを頼むよ。」
夕の柔らかい髪に触れ、ニッコリ。
「うん。」
ジロの思いを理解したのか、大きく頷きニコリ。
ナエは他の子よりハッキリした顔立ちになるだろう。ナタから先読の力を受け継ぎ、動けなくなるほど弱るかもしれない。
そんなナエを守れるのは誰か。
親は子より先に死ぬ。
生きている間は守ってやれるが、死んでしまえば守れない。だから年が近く、身元がハッキリしている男を傍に。そう考えた。
「♪ 見上げてごらん お空は一つ♪」
ナエと夕が手と繋ぎ、心を込めて歌う。
子の成長は早い。夕は七つ、ナエは六つになった。
ユタは次の社の司になる事が決まっている。嚴は先見の力を受け継いだ子、樹を産んで直ぐ死んでしまった。
遺児は掟により、御婆さまに養育される。
男手一つで育てられた夕は時時、先見さまが暮らす離れへ行く。
生まれて直ぐに引き離され、父にも会えない妹のため。会いたくても会えない妹の心を守るため、父母が教えてくれたティ小のうたを歌う。
「♪ ずっと離れた 国へも行ける♪」
ナエと夕を優しく見守るナタとジロ。
ユタは朝、早く出掛けて暗くなるまで戻れない。だからナタもジロも可能な限り、幼子に付き添う。誰にも手出し出来ないように。
御婆さまから疎まれ、意地悪されるのは夕だけでは無い。先見さま同様、母から強い力を受け継いだナエも目の敵にされている。
「♪ 心の翼 広げて飛ぼう♪」
歌い終わると、離れの窓から白い布が垂れる。
「またね。」
ナエと夕が手を振るとユラユラゆれた。
ユタは毎日、離れへ行く。もちろん顔は見られない。先見さまに直接会えるのは社の司、禰宜、祝。姿を見られるのは祝人頭と祝女頭。だから会えない。
けれど樹は知っている。父と兄から愛されていることを。




