17-51 全てを懸けて
ジロの子が生まれた。
ブランから報告を受けたネージュは執務室へ、大急ぎでカーの元へ向かう。
「良かった。」
生きておられる。
「どうした、ネージュ。」
笑いながら泣くネージュを抱き寄せ、優しく撫でる。
化け王は次代が生まれると同時に、その生涯を終える。収集は禁忌。他の才と違い、同時に現れる事はない。はじまりの一族でも。
カーがジロを助けたのは、その体を奪ったのは次代を残すため。
考えを変えたのは収集の才を受け継ぐ子を、どんなに可能性が低くても誕生させなければ守れないと知った時。
はじまりの一族は減りに減り、残っている女はウィだけ。母は違うが父は同じ。血の繋がりの濃い者同士の交わりは、優生学的見地から見ても好ましくない。
カーはウィに限らず王族を、はじまりの一族を嫌っている。
ルーとエンは例外中の例外。
「まだ先だよ。」
次代が生まれるのは。
「カー様。」
まだ、と仰った。となるとジロの子ではなく、早ければジロの孫。
「才は万能ではない。この国を、アンリエヌの民を守るには要る。」
祝の力が。
天界の生き物も冥界の生き物も、その姿を見せる事は稀。堕天使だって同じ。史上最強と謳われるカー王にも始末できない、完全消滅させられない存在。
それらが我が物顔でアンリエヌを闊歩する。
それダケではない。民を消耗品のように扱ったり、娯楽の対象にしたりと遣りたい放題。
抗議しようにも天界、冥界にも行けない。いや、正確には行ける。けれど不死の才を以てしても、生きて戻れるとは限らないのだ。
「私は王だ。民を、国を守らなければならない。」
より強い力を持つ次代を残さなければ、アンリエヌを守れないと知った。
「私の予知は残念ながら、外れた事が無い。」
「はい、存じております。」
天界、冥界の魔族がアンリエヌを荒らしている。
一匹でも厄介なのにヤツら、大挙して押しかけるんだ。迷惑千万な話だ。纏めて駆除できれば良いのに、その手立てがない。
今は。
「隠れた存在であるハズの神が、最高の支配者が俗物とは思わなかったよ。」
人類に禍福を授ける存在だが、その権威を濫用して擅にする。
「はい。」
はじまりの一族が生まれ持つ才を、その才を全て収集なさったカー王にも成し遂げなれないなんて。
「でも一つだけ。」
それが希望的観測に過ぎないと笑われても、譬え根拠が無くても実現可能を信じて突き進むしか無かったんだ。
「守らせておくれ。」
全てを懸けて。
未来は変わる。
予知する度に少しづつ変わっているが、それが良い方向にダケ変わるワケでは無い。イヤというほど思い知った。だから全力を尽くす。
何をドウ伝えても結局は丸投げ。次代が即位するのは、その命が消えた瞬間。欲しいのは器。
歴代化け王が集めに集めた才を、その思いを受け継ぐ器を求め続けた結果がコレだ。
済まない、和。




