17-50 力を合わせよう
オビスも鎮森から出られない。けれど、これまで見えなかったモノが見えるようになった。
見えないモノもあるが、それが良いモノなのか悪いモノなのかは判る。
「あぁ、どうしよう。」
あの子は悪いモノでは無い、と思う。
「何かが憑いている、とかじゃナイんだ。」
なのに、そうか。
「他の村、山へ移るのか。」
ジロさまが生まれ育ったのは乱雲山。この山から離れている、祝辺の守とは違う何かに守られた山。
だから生まれた子も、ジロさまも子も同じように。
いや待てよ。この山を出入り出来るのは谷河の狩り人と、祝辺の守から許された二つの忍び。鎮森の隠から聞いた話だ。
その隠は隠の守から、とつ守から聞いたと言っていた。
「山で暮らす犬って、群れで守るんだよね。」
ドキリ。
「群れから追い出されたから、いつも一匹なの?」
あぁ、そうだよ。
「遠吠え、しないモンね。」
虚しくなるからな。
「一匹だと・・・・・・。」
何だよ。
「熊と戦えないよね。」
春の熊になら勝てる。けれど気が立っている夏、冬に備える秋の熊には勝てない。それでも、負けると分かっていても戦う時はある。
どうしても守りたい何かを守る時だ。
「そんな熊をジロさまは、たった一人で狩れるんだ。」
だから何だ。
「祝社には人の守と隠の守が居る。」
そうだな。
「人の守は人だから、その気になれば。」
隠の守は隠。どんなにジロさまが強くても、人とは違う何かを持っていても隠の守に勝てない。とでも言うのか。いや違うだろう。
それに知っているぞ。鎮森で暮らす隠に、とつ守にも迫ったのを。ジロさまに手を出さぬように。
「とつ守は強い。」
鎮森に認められた守だからな。
「どんなに強くても数で負ける。」
隠の守は多い。どれだけ居るのか分からないし、どんな力を持っているのかも分からない。
一隠二隠なら何とでも。けれど束になれば、とつ守でも止められないだろう。
山の犬だって同じ。
春の熊でも一匹なら勝てるし、夏や秋の熊だって追い払おうと思えば追い払える。でも戦えない。
「だから力を合わせよう。」
ん?
「知ってるよ。隠にも見えない何かが、神とは違う何かが見える事。」
・・・・・・。
「赤い目をした白い鳥とは違う何か、だよ。」
気付いていたのか。
「御犬なんだろう、その何かは。」
そうだ。
「鎮野のユタにも見える、話せる。なのに。」
なのに、何だ。
「居るのは分かる。だけど見えない、話せない。だから頼れない。頼りたいのに頼れない。」
これから何か、恐ろしい事が起こるのか。ジロさまを悲しませるような、苦しめるような事が。
 




