17-48 守るよ
生まれる。ナタとの子が、初めての子が生まれる。
男でも女でも良い。ナタが生きていれば、健やかならソレで良い。
「湯だ、湯を沸かせ。」
産婆が叫ぶ。
「ヒャイッ。」
お産は女の戦。男に出来る事は湯を沸かし、熊のようにウロウロする事だけ。
「ホギャァ、ホギャァ、ホギャァ。」 ヤットデタ、ツカレタ、サムイィィ。
プカプカ気持ち良く過ごしていたのに、それなのにグゥっと押し出されてビックリよ。幾らフニャフニャでも潰れるって。
「ホギャ、ホギャ、ホギャ。」 スコシアツイワ、デモアタタカイ。ホメテツカワス。
ふぅ。やっと落ち着いた。
・・・・・・エッ、なにナニもう出るの? ゴワゴワするのに包まれても嬉しくナイ。
「ナタ!」
ジロが産屋の入口で叫ぶ。
「・・・・・・入るぞ。」
返事が無かったので飛び込もうとしたが、思い止まって一声かける。
「ならん。」
産婆が答えた。
ナタは我が子の産声を聞いて安心したのか、気を失ってしまう。
初産は長引くモノだがスルリと生まれた。と言っても命懸けの大仕事。
「ナタは、その。生きているのか。」
子は生きているのだろう。大きな泣き声が聞こえたから、きっと強い子に育つ。
「生きている。眠っているから少し、そのまま待て。」
少し? そんな事を言って、いつまでも待たせる気だな。ナタ、信じているよ。生きていると。
「そんな顔をするな。ナタは生きている。」
なら、どうして会わせてくれないんだ!
愛妻の心配をするジロを、鎮森からジッと見守るオビス。
直ぐに駆け寄ってギュッを抱きしめたい。けれど、そうしないのは見える人が居たから。
「ジロ、落ち着いて。子を産むのはね、とっても痛いんだ。だからイロイロ構ってイラレナイ。」
それはソウだろうケド。
「夕が生まれた時もソウだったよ。」
あれから一年ほど経った。ボンヤリしている事が多いが、夕は賢い子だ。
「ジロ、良いぞ。入れ。」
「ハイッ。」
ナタに駆け寄り、口元に耳を近づける。それから首筋に触れてホッと一息。
「ナタに似た女の子だ。ほれ、抱いてやれ。」
小さくてフニャフニャで、とても温かい。
「・・・・・・ナエ。」
名は子への、初めての贈り物。だから幾度も話し合い、決めた。男でも女でも『ナエ』と名付けようと。
「ナエ。うん、とても良い名だ。幸せに暮らせるよう、シッカリ守れ。」
「はい。」
ナタが命懸けで産んでくれた、それも初めての子だ。
母から娘へ受け継がれる力は強く、恐ろしいモノ。ナエが潰されないよう、しっかり守らなければ。




