17-43 言わなくても解るよね
山守の民が減りに減り始めたのは、五つほど前の春から。嬰児や幼子がバタバタ死ぬようになったのは、それから五つほど前の冬から。
まず熱を出し、体の痛みを訴える。それから力が抜けたようになり、腹を下して痩せる。
体のアチコチに痣のような点が出て、ガタガタ震えながら死ぬ事も。
「男と男が交われば禍が起こる、か。」
いつだったか、ここのつ守が言った。
「末の事を読む度に変わる。けれど変わらないのだと、悲しそうに。」
山守の男が体の弱い男の尻に突っ込むようになったのは兵や狩り人、樵も減って女を攫えなくなったから。
山を下り、村や隠れ里を襲うにはイロイロ要る。なのに物も人も足りない。だから山越へ。
山越分社の巫は神降ろし、口寄せも出来ない。なのに己は神に選ばれたのだと思い込み、山越の外から来る者を谷底へ放り込む。
「あれは、この事だったのか。」
男が男を好きになる事もある。悪い事だとは思わない。けれど、どう考えてもオカシイだろう。
「男は子を孕めない。孕めなければ産めない。なのに、そんな事も分からなくなるとは。」
他から攫われた女は獄に放り込まれ、飲まず食わずで気を失っても休みなく、死ぬまで。中にはカヨのように、骸が腐るまで穢され続ける者もいた。
他と違う『何か』を持つ人を捕らえ、やれ生贄だ人柱だと言って嬲る。
若い女が減れば子は増えない。生まれた子を物のように扱えば育たない。なのに止めなかった、いや違う。止められなかったのだ。
「山守の民など、この御山には要りません。」
鎮森のツルが言い切る。
「死に絶えれば良いのです。」
鎮森のヨキが微笑む。
ツルは山守社、はじまりの祝で清めの力を持っていた。全く変わらない山守の民に見切りをつけ、鎮森の民として活動中。
ヨキは山守最後の祝。
元、祝人頭で祝の力は弱いが人望が有った。生贄や人柱にさせられた人の魂を救うため、鎮森の民として活動中。
「山守から人が居なくなっても、祝辺が残れば山守神が御隠れ遊ばす事は無いでしょう?」
オビスが問うた。
「はい、その通り。良く知っていますね。」
とつ守に褒められ、チョッピリ照れる。
オビスは口減らしのため、山守神に捧げられた幼子の骸に、闇堕ちした山守の隠が入り妖怪化。
鎮森に入ったのは山守の民と戦い、勝つため。食べ物を探し、力を付けるため。
赤い顔に白い髪、ギラついた目に曲がった角、裂けた口からは牙。それも大きいのを二つづつ生やした幼児。
命名したのはアンリエヌ帰りのジロで、羊の角に似ていたのでオビスと命名。
「祝辺の守は知っていたのに、なぁんにも変えようとしなかったんだね。」
ニコリ。
「責めてナイよ。」
この体は親から、山守の村長から捨てられた倅のもの。だから山守が滅んで喜ぶコトはあっても、嘆き悲しむコトは無い。
「でも思うんだ。山守の民はネバネバで諦めが悪いから、祝辺と同じコトを考えるんじゃって。」
オビスの目が鋭く光り、とつ守が見開く。
「言わなくても解るよね。許さないよ、何があっても。」




