17-42 その魅力、三割増し
山守の民が、これまでよりオカシクなった。元からソウなのだから、それはもうタイヘンな事になっている。
「・・・・・・。」
カヨじゃなくても言葉を失う。
女が居なくなった。だから男の、というワケでは無い。
突っ込めればドコでも良かったのだ。初めは生きた人の、それから死んだ人の尻の穴に喉の奥。
「ココまで来ると哀れだな。」
とつ守が呟いた。
八にあるのは不安を増幅させ、心を操る闇の力。
対象を動揺させたり混乱させたり、絶望させたりして出来た隙に闇を流し込み、思い通りに動かす。そんな力だ。
そんな八が初めに仕掛けた罠は、『女が少なくなっている』だった。少なければ、なかなか手に入らなくなれば欲しくなる。それが人。
「渡さん! ワシのモノだ。ギャハハハハ。」
完全にイッちゃってマス。
「ドウだ、ドウだ、ドウだ。」
見たくないよ、そんなモノ。
八は『子を増やさなければ山守の村が滅びる』と思わせたのではナイ。『勃たなくなったら男として終わる』と揺さぶり、『腰を振り続ける』ように仕向けた。
生き残った山守の民は、男は周りが見えなくなっている。
娘に子持ち女、幼子、嬰児。老いた女も、もう居ない。残っているのは男だけ。なのに腰を突き出しブルンブルン振り、穴を見つけては突っ込む。
「闇が、闇が止らない。溢れてしまう。」
山守神が御頭を抱え遊ばす。
「アチコチから噴き出すから、どんなに願っても薄くならないの。」
と仰り、遠くを見つめ為さった。
山守神は山神で在らせられる。
霧雲山系を丸ごと清めたり、豊かにしたりとイロイロ御忙しい。だから山守の村からバカスカ噴き出す闇など、山守の村ごと祓い清めてしまいたい。
山守の民が消えて滅びても、骨ひとつ残らなくても構わない。なんて思っても御顔に出されず、御口に為さる事もない。
けれどハッキリ言ってギリギリである。
「モフモフしたい。」
山守神の使わしめ、シズエは九尾の妖狐。白く美しい毛並みの持ち主。その尾はフワッフワで、絹のように艶やか。
常に笑みを湛え、てはイナイのだがソウ見えるのが狐。その口元がヒクッと動いた。
「山守神、御気を確かに。」
柔らかく優しい温もりを求めてフラリ、ふらぁり。
「そちらは」
ゴンッ。
「柱で御座います。」
遅かった。
御目を潤ませ、黙って見つめ為さるのは狐の尾。腹でも耳でもなく九つの尾。
「シズエ。」
「はい。」
山守社は山守の村外れ、山守では珍しく日当たりの良いトコロにある。
シズエの毛皮が輝いて見えるのも、青空に浮かぶ雲のように見えるのも気の所為では無い。全て陽光の力。
その魅力、三割増し。




