17-41 光の中へ
山守社の離れに置かれた嬰児は、その大半が死んでいた。母の胸に抱かれたまま、冷たくなっていた。
「気の毒に。」
この子だけは。そう思って逃げてきたのに、その子を離さず逃げてきたのに力尽き、そのまま殺してしまったのだろう。
「手厚く。」
「はい。」
山守社、総出で見送る。無駄口を叩かず黙黙と。
乱れた衣を整えてから髪に櫛を入れ、嬰児を白い布で包む。それから母の胸に子を置き、並べるのだ。
焼くために。
山守社に辿り着き、子を託した母は死ぬ。生き残った子も後を追うように、その日のうちに死んでしまう。眠るように旅立つ。
迎えに来た隠に抱かれて。
「♪ 光の中へ呼ばれて行くよ 涙を拭いて 屈んで伸ばす優しい腕に 飛び込み笑え♪」
カヨが歌う。琴を弾きながら、祈るように。
嬰児でも山守の民。呪いから逃れられないが、殺された女たちを悼む。望まないまま子を(はら)み、その子を産んで涙する。そんな女を憐れみ、悼む。
カヨは産んだことが無い。けれど己と同じ扱いを受け、望まないまま母になって苦しみ嘆く。そんな女を見てきた。
生まれて直ぐに奪われる小さな命。母を失い、弱って死ぬ。誰にも抱かれず、笑いかけられずに死ぬ。そんな嬰児も見てきた。
「♪ さぁ飛び出そう愛しい子よ 幸せ掴むんだ 諦めないで進めば変わる 命があれば♪」
生きられなかった嬰児のために、心を込めて歌う。
山守の民は、山守の男は悪く生まれたとしか思えない。女から生まれてきたのに、その女を酷く扱う。女を人として扱わず、寄ってたかって嬲り殺す。
笑いながら。
『子を産め』『増やせ』と言うけれど、生まれた子を慈しむ事はない。ドンドン産ませて苦しめて、弱って死んだら森に捨てる。
母に死なれた子は引き取らず、産屋に放り込んでオシマイ。
「♪ 次があるなら笑って生きよう 諦めないで 足を動かし前に進めば 変わると思え♪」
根の国で待つ母を求め、小さな手を伸ばす。そんな子を踏みつけ、蹴り上げるような男はイラナイ。サッサと消えてもらおう。
女を泣かせる男は、女を苦しめる男は敵。子を守れない、育てられない男は要らない。女より力が強いのに、その力を使おうとしない男も敵。
奪う事しか考えず、威張って振舞う男も要らない。
「♪ さぁ飛び出そう愛しい子よ 幸せ掴むんだ 両の手を広げ前へ前へ 進めば分かる♪」
うまれた子は皆、幸せになれる。どんなに苦しくても生きる事を諦めず、進み続ければ。だから、また生まれたら手を伸ばそう。
辛い事の次には楽しい事が待っている。悪い事が起きたら良い事が起きる。光と影は、その背を合わせているから。
「いってらっしゃい。」
山守社の人が呟く。
「真っ直ぐ進むんだよ。」
鎮森の民が手を振る。
ユラユラと揺れながら空、高く。あらゆる苦しみから解き放たれ、微笑みながら旅立つ魂。その全てがキラキラと輝き、光の中へ吸い込まれた。




