表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
再生編
1474/1623

17-41 光の中へ


山守社やまもりのやしろの離れに置かれた嬰児みどりごは、その大半が死んでいた。母の胸に抱かれたまま、冷たくなっていた。






「気の毒に。」


この子だけは。そう思って逃げてきたのに、その子を離さず逃げてきたのに力尽き、そのまま殺してしまったのだろう。


手厚てあつく。」


「はい。」






山守社、総出で見送る。無駄口を叩かず黙黙もくもくと。



乱れたころもを整えてから髪にくしを入れ、嬰児を白い布でくるむ。それから母の胸に子を置き、並べるのだ。


焼くために。



山守社に辿たどり着き、子をたくした母は死ぬ。生き残った子もあとを追うように、その日のうちに死んでしまう。眠るように旅立つ。


迎えに来たおにに抱かれて。






「♪ 光の中へ呼ばれて行くよ 涙をいて かがんで伸ばす優しい腕に 飛び込み笑え♪」


カヨが歌う。琴を弾きながら、祈るように。




嬰児でも山守の民。呪いから逃れられないが、殺された女たちをいたむ。望まないまま子を(はら)み、その子を産んで涙する。そんな女をあわれみ、悼む。



カヨは産んだことが無い。けれどおのと同じ扱いを受け、望まないまま母になって苦しみ嘆く。そんな女を見てきた。


生まれて直ぐに奪われる小さな命。母を失い、弱って死ぬ。誰にも抱かれず、笑いかけられずに死ぬ。そんな嬰児も見てきた。




「♪ さぁ飛び出そういとしい子よ 幸せ掴むんだ 諦めないで進めば変わる 命があれば♪」


生きられなかった嬰児のために、心を込めて歌う。




山守の民は、山守の男は悪く生まれたとしか思えない。女から生まれてきたのに、その女を酷く扱う。女を人として扱わず、寄ってたかってなぶり殺す。


笑いながら。



『子を産め』『増やせ』と言うけれど、生まれた子をいつくしむ事はない。ドンドン産ませて苦しめて、弱って死んだら森に捨てる。


母に死なれた子は引き取らず、産屋うぶやに放り込んでオシマイ。




「♪ 次があるなら笑って生きよう 諦めないで 足を動かし前に進めば 変わると思え♪」




根の国で待つ母を求め、小さな手を伸ばす。そんな子を踏みつけ、蹴り上げるような男はイラナイ。サッサと消えてもらおう。


女を泣かせる男は、女を苦しめる男は敵。子を守れない、育てられない男は要らない。女より力が強いのに、その力を使おうとしない男も敵。


奪う事しか考えず、威張って振舞う男も要らない。




「♪ さぁ飛び出そう愛しい子よ 幸せ掴むんだ 両の手を広げ前へ前へ 進めば分かる♪」




うまれた子は皆、幸せになれる。どんなに苦しくても生きる事を諦めず、進み続ければ。だから、また生まれたら手を伸ばそう。


つらい事の次には楽しい事が待っている。悪い事が起きたら良い事が起きる。光と影は、その背を合わせているから。






「いってらっしゃい。」


山守社の人が呟く。


「真っ直ぐ進むんだよ。」


鎮森しづめもりの民が手を振る。






ユラユラと揺れながら空、高く。あらゆる苦しみから解き放たれ、微笑みながら旅立つ魂。その全てがキラキラと輝き、光の中へ吸い込まれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ